2014年11月30日日曜日

『大人の肉ドリル』の発売を機に家での肉調理について考えたこと


この10年ほどの肉人気はブームをはるかに超え、日本における肉食文化を急激に進化させた。でもそれは主に外食産業においてのこと。一般家庭の肉調理の進化はそれほど進んでいない。

というのも、プロがそのネットワークと技術を駆使して導入した手法をそのまま家の台所にもちこむのは、とてもむずかしいからだ。味にうるさい客を相手に修練を積み重ねた再現力と、たくさんの客を満足させるために必要だった高額で大きな機材。いずれも一日にせいぜい10人分を作る家庭の腕自慢が導入できるものではない。

でも、予約が取れない料理店のあの味を、どうしても家で食べたい。そのままというのは難しくとも、あの感動を行列に並ぶことのできない家族に伝えたい。そんな人たちのために、編集者/ライターとしての自分は何をできるのかを自分なりに考えた。

出た結論は、調理にまつわる莫大な情報を整理して、各工程の意味をひもとき、必要な部分を抽出し、家庭の機材に合わせて再構築すること。ただし頭でっかちになることなく、実際に食べたときの記憶と取材などで得た情報を足がかりに、調理にまつわる科学論文や文献を調べ倒す。そうして得られたエビデンスから従来の手法を検証・補強することに軸足を置いた。そうして家で肉がおいしく調理できるような手法をレシピとして組み上げながら、同量のページ数を「おいしくなる仕組み」の解説にあてた。

正直なところ、最後は突貫作業になってしまい、原稿があらいところを早く重版で直したいという図々しい気持ちもある。でも料理好きの校閲の方(あの「北島亭」にハムの作り方を習いに行くようなマニアックな先輩編集者でもあります)が、「いくつか作ってみたけど、どれもとてもおいしかったし、ステーキなどは感動しました。安い肉でやったのに、あれほどうまくなるとは。今後、ステーキはこの手法で焼きます」と仰ってくださった。

予算等の事情で、写真も自分で撮ることになり、アガリに凹んでいたら、ビジネス誌の記者をしている知人が写真をホメてくれた。「素人なりにがんばった」というホメ言葉かと思って礼を言ったら「えっ。これ自分で撮ったの?」と持ち上げてくれた(もっとも表紙はアザー用として預けておいたコンデジ写真をデザイナーさんが見事な画角でトリミングしてくれたもの)。

調理にまつわるプロの方々や料理家を差し置いて、こんなものを出していいのかという後ろめたさはいまもどこかにありますが、「食べる」「つくる」「ひもとく」を網羅するというスタンスだからこそ書けることもきっとあったのでしょう。肉についてこうした仕立ての本がなかったこともあってか、肉食女子として第一線で活躍されるフードライターの小石原はるかさんや、国内最高峰のソーセージを作る「シュタンベルク」の久保弘樹さんがFacebook上で身が縮こまるほどホメてくださって、本当に勇気づけられました。


何はともあれ、肉が好きな人には(作る人だけでなく食べる専門の方にも)何かのお役に立てる一冊になっていると思います。書店等で見かけたら、立ち読みでもいいので手にとってやってください。もちろんレジ直行も大歓迎です(と言いつつ、Amazonリンクもこちらに貼っておきます)。



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