2015年8月21日金曜日

『食戟のソーマ』で大森靖子のすごさに触れる不明

『食戟のソーマ』の新ED曲がアレだという話を耳にした。というわけで、早速見てみたら、まあ確かにアニメの作風に合ってるかというと微妙だけど、ED曲『さっちゃんのセクシーカレー』は悪くな……いどころか、だいぶ引っかかってしまった。声が耳に残るし、歌詞がところどころおかしい。というか、曲の世界観自体がおかしい。エンドロールで確認すると「大森靖子」って人の曲らしい。名前で検索したら、ED曲と両A面だという『マジックミラー』の動画が引っかかった。

その曲がすごかった。


https://www.youtube.com/watch?v=0YFG6BCQZFU

やー、びっくりした。なにこれ。歌詞のセンスがめちゃくちゃいい。歌詞の世界観が無自覚で痛い女子そのもののようであり、そういう女子の代弁者のようでもある。自虐、シニカル、エゴイスティック、応援歌……。どの立場から誰に訴えかけてるのか、立ち位置もたゆたっていて超多面的。女子っぽいモノローグ調の歌詞なのに、男の僕が聞いても妙に生々しい。感情的なのに異様にリアルで、かわいらしいのに毒々しい。統一感あるアンビバレンツ。

YouTubeの大森靖子公式チャネルにMVが大量にUPされていたので、片っ端から再生ボタンを押す。そのうち面倒くさくなって、ミックスリストをそのまま再生。そのたびに歌詞の引力にヤラれまくる。だって、初聴でYouTubeで聴いてるのに、「YouTubeさんから私の全部をわかった気になってライブに来ないで」って歌われたらドキッとするじゃん。

ノスタルジックJ-pop』なんて、だめんず女子ワールド全開。「ここは多機能トイレです」「ダサいからスーサイドやめた」「消化器はいらないよね 昨日のお金でパチンコするとこ見てたよ」「笑笑でもいいから帰りたくない」「せんせいあたしパーなんです」。

完全に言葉の世界の住人だ。ここまですごいと、嫉妬すらしない。でも、強い歌詞ばかりが羅列されているわけじゃなく、ふつうの調子の歌詞の合間にキュッと耳に飛び込んでくるからこそ、歌詞の世界や文脈がより印象に残る。

と思いながら、あれこれググっていたら、去年メジャデビューしたときのインタビューでそういうくだりがあった。以下、「ナタリー」から引用。
この「ノスタルジックJ-pop」も(Aメロの)「ちょっと大事すぎて気持ち悪いの」のところとか、まわりくどいしちょっと弱いんです。でも今までは本質的なことと引っ掛け以外は全部消すみたいなとこあったんだけど、今回はだいぶオッケーにしましたね。
余白がないとやっぱ聴けないんですよ、日本人って。 
http://natalie.mu/music/pp/oomoriseiko02/page/3


余白が重要なのが「日本人だから」かどうかはわからないけど、どうも昨年のメジャーデビューを機に少し歌詞の作風が変わったってことらしい。「引っ掛け」というのは、先に挙げたような強い歌詞のほか、『ミッドナイト清純異性交遊』の「春を殺して夢は光っている」というくだりとか、『君と映画』で「私のリモコン握られてる。握ってる見えないヒットラー」といった、印象に残るフレーズで耳を「引っ掛け」に行くあたりを指すんだろう。

もっとも「引っ掛け」以外の「本質的なこと」も、メロディに乗ったら強くなるフレーズ連発。ちなみに先の2本は、MVに橋本愛と蒼波純が出演していて、ショートムービーのような仕立てになっていた。かわいえいじくんの『カゲロウ』(菅野結以嬢が出演)もそうだったけど、いい曲にムービー仕立てのいいMVがつくと、人は(少なくとも僕などは)「いいもの見たなあ」と心に残ってしまう。

大森靖子に話を戻すと、言葉のセンスを置いておいても、音楽性の幅の広さにもいい意味でお口あんぐり。アレンジやメロディの幅がびっくりするくらい広い。ふつうなら、とても一人の作品として成立しないんじゃないかと思うほどいろんなエッセンスが入ってる。だいたい最初に聴いた『マジックミラー』にしても聴くたびに、いろんなアーティストが頭をよぎる。CHARAにトーレ・ヨハンソン、椎名林檎にすかんち……。つかみどころがあるようでない。そして気づけば、大森靖子の曲として脳内でリピートしてしまう。してやられた感満点。

以前、"ミュージシャン芸人"として知られる、マキタスポーツのラジオ番組に彼女がゲスト出演したときもこんなことを言っていたらしい。

『こういうの、あるある』みたいなメロディー作って、自分の歌詞を乗せるみたいな。いまの曲もだいたい、松任谷由実さんと松田聖子さんと中島みゆきさんを足して3で割ろうみたいな感じで作りました。 

「いまの曲」というのは番組中に生演奏をしたという「呪いは水色」という曲の話らしいけど、ユーミンと松田聖子と中島みゆきを足して割ろうという発想がすごい。どんなんだ。でも聞くと、確かにそんなイメージが浮かぶ。他にもどんなアーティストをモチーフとしたか想像がふくらむ曲もけっこうある。

たとえば「絶対絶望絶好調」の岡村靖幸感というか川本真琴感というか。
https://www.youtube.com/watch?v=Q_X4MBaeaik

もしくは「イミテーションガール」のPerfume感とか。
https://www.youtube.com/watch?v=WbKu4Xx0_Us

「表現は自分の中にあるものじゃなくて、通りすぎてく景色を見て、それに自分が引っかかってるだけ」というようなことを前出のナタリーのインタビューでも言っているけど、オマージュ感が前面に出ている。2013年の週刊アスキーにも、「ルールを目的にしない創造的な日本へ」というインタビュー記事が載っていた。彼女自身、椎名林檎のファンであることを隠そうともしてない。

「○○っぽい」としか人の音楽を評価できない人を、全力で馬鹿にしたかった。そんな失笑の気持ちを込めて、私は1stアルバム「魔法が使えないなら死にたい」のジャケットを、椎名○檎さんの2ndアルバム『勝訴ストリップ』のオマージュにしました。もちろん彼女のことをとても尊敬しているし、私自身ファンです。が、誰ひとり同じシンガーなんていないのに、ちょっとエモいだけで彼女の劣化コピーとうたわれ、レーベルにもそういう売り方をされ、もう100人以上のシンガーが10年以上同じことの繰り返しで潰されてきたように私には思えます。
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/179/179198/

潔くて新しい。や、こういうスタンスのアーティストはいたけど、新人でここまで言い切る人はそういなかった。先人の影響を認めながら、表面だけをなぞるでなく、精神論に走るでもない。『絶対絶望絶好調』のなかでも「エモいのは飽きたんでしょ」という、シーンへの批判とも取れる歌詞があった。それでも、売るための努力は全力でする。プロだ。

あれこれ見ているうちに、彼女が元モーニング娘。の道重さゆみの熱烈なファンだということを知る。ああ、そうか。何かのMVで「うさちゃんピース」やってたし、アイドルイベントに出演している映像もあった。好きな作詞家が、つんく♂と小室哲哉って目のつけどころが#すぎ。音楽のジャンルとレンジの広さに頭がクラクラしそうになる。

正直、ライブの映像を見ると、アイドルチックな振りつけに不思議な気持ちにもなるが、彼女自身がアイドルカルチャーの薫陶を受けているとすれば、そこに根ざした振りつけや、暗闇に揺れるサイリウムなどは、自然なことなのかも。なんでもかんでも「オイ!」って合いの手がかける客席の同調圧力は正直苦手だけれども、一度ライブに行ってみないことにはこのあたりはなんとも。

と、ライブの予定を調べてみたら、当面予定なし。それもそのはず、今年5月に妊娠5か月を発表していた(なのに、6月にライブをやっていた)。8月末にロフトプラスワンのイベントがあるけど、当然のように売り切れている。しょうがないから予習して待つとしよう。

そういえば「きゅるきゅる」のMVなんかは、デビュー当時のJUDY&MARYがまとっていた雰囲気をどことなく彷彿とさせる。そしてやっぱりこの曲の歌詞もいろいろすごいんだけど、とりわけ気に入っているのが……

「わたし性格悪いから あの子の悪口絶対いわない」

いい。すごくいい。