2015年9月16日水曜日

「「早死に」の原因は食生活だった(研究結果)」のばか

なんだろう。この冗談みたいなハフポストの記事は。ツッコミどころがありすぎて、ツッコミたくなくなりますし、こんなことやってる場合じゃないんですが、いかにピックアップするポイントがひどいかだけ、備忘録がてら。

「早死に」の原因は食生活だった(研究結果)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/09/14/poor-diet-cause-of-early-death-_n_8137502.html?ncid=fcbklnkjphpmg00000001

2013年には世界中で3,100万人が死亡しており、1990年の2,500万人から大幅に増えている。
こんな指標をドーンと出してくる斜め上のセンスがすごい。1990年当時の人口は52億7000万人、2013年で70億人。試しにこの単純計算土俵に乗っかって総人口に対する死亡率を単純比較してみると1990年は4.8%で、2013年は4.4%。わざわざ指摘するまでもなく、単純死亡率では有意に下がってるじゃないですか。

だいたい世界的にも、大局的には平均余命が右肩上がりな21世紀のいま(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life10/03.html
 )、「早死に」という個人の意識に引っ掛けた見出しが気持ち悪い。

あとね。この博士がかわいそう。

研究を主導した、保険指標評価研究所のクリストファー・マレー博士は、「喫煙や不健康な食生活をやめ、大気汚染などの環境リスクへの対策を強化すれば、健康を改善できる可能性は高い」と述べた。

クリストファー・マレー博士もこんな煽り記事のなかで、さも新しいことを語ってるようなしつらえで書かれると迷惑がるんじゃないでしょうか。「述べた」じゃねえよ。と口の悪い人なら罵詈雑言を浴びせるところですよ。比べてみると同じ研究内容でも以前の発表に対する東京大学のリリース(※PDF http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20121214.pdf )は劇的にまとも。
発表内容: 医療の進歩や開発の進展によって、世界の人口の大半は早死しなくなったものの、皮肉なこと に病気を抱えながら長生きするようになったことが、世界の疾病負担研究(GBD 2010)により 分かった。

予測はできていた当たり前のことだけれども、きちんと調査したら改めて実証されたという研究を「劇的な新発見!」みたいな調子で書かれた記事をい海外から持ってくる。Webのオチの失格例としてよく持ち出される「どうだろうか」という言葉を使わざるを得ないわけです。

だいたい元記事のハフポストUK版の記事(http://www.huffingtonpost.co.uk/2015/09/14/poor-diet-largest-cause-of-early-death-worldwide_n_8132344.html なんて英国本国ではそのままゴミ箱行きレベルで読まれてないのになんでわざわざ日本に持ってきてゴミを撒き散らかすんでしょうか真に受けるほうも真に受けるほうだしこんなところでブログに書いてる自分もどうかと思うんですが


でもこういう記事ばかり引っ張ってきてると、メディアとして信頼されなくなって読まれなくなりそうなリスクが危なくて怖いです。という、自戒を込めながら、書き手のNatasha HindeさんというLifestyle writerさんの記事をざざっと見てみました。
http://www.huffingtonpost.jp/natasha-hinde/

日本で言うと(面識はないけど)あの人とかあの人みたいなライターさんかな。ああ、本当にどうでもいいものに時間を費やしてしまった。あわてて見積もりと企画書と原稿にとりかかりながら、明日行われる夢のような肉会に備えます。

2015年9月13日日曜日

お詫び

今年一番立て込んでた今週のある朝、突然メインPCがピクリともしない状態になり、予定調整その他各所にご迷惑をおかけして申し訳ありません。ようやく新PCのセットアップが8割方完了し、あとは残りソフトを突っ込んで旧PCからデータのサルベージをすればいいところまで来ました。



たいへん無念なのは、この数年ずっとお邪魔させていただいていた、某家の稲刈りお手伝いイベントへの参加記録が途切れたこと。ホストから「来年以降もありますよ」と慰めていただいたのはありがたい限りですが、直前まで先行きが見えなかったことも含め、あれこれ申し訳なく、断腸の思いであります。

現在、東北新幹線で北に向かっており、何の因果かちょうど稲刈りチームと宇都宮あたりですれ違いそうなタイミングですが、週の半ばまでには東京に戻ります。

今週はまったく毛色の異なるふたつのWeb媒体で、それぞれ新連載をスタートさせていただく予定となっております。そちらも何卒よろしくお願い申し上げます。
※写真は去年の稲刈りの模様であります。

2015年8月21日金曜日

『食戟のソーマ』で大森靖子のすごさに触れる不明

『食戟のソーマ』の新ED曲がアレだという話を耳にした。というわけで、早速見てみたら、まあ確かにアニメの作風に合ってるかというと微妙だけど、ED曲『さっちゃんのセクシーカレー』は悪くな……いどころか、だいぶ引っかかってしまった。声が耳に残るし、歌詞がところどころおかしい。というか、曲の世界観自体がおかしい。エンドロールで確認すると「大森靖子」って人の曲らしい。名前で検索したら、ED曲と両A面だという『マジックミラー』の動画が引っかかった。

その曲がすごかった。


https://www.youtube.com/watch?v=0YFG6BCQZFU

やー、びっくりした。なにこれ。歌詞のセンスがめちゃくちゃいい。歌詞の世界観が無自覚で痛い女子そのもののようであり、そういう女子の代弁者のようでもある。自虐、シニカル、エゴイスティック、応援歌……。どの立場から誰に訴えかけてるのか、立ち位置もたゆたっていて超多面的。女子っぽいモノローグ調の歌詞なのに、男の僕が聞いても妙に生々しい。感情的なのに異様にリアルで、かわいらしいのに毒々しい。統一感あるアンビバレンツ。

YouTubeの大森靖子公式チャネルにMVが大量にUPされていたので、片っ端から再生ボタンを押す。そのうち面倒くさくなって、ミックスリストをそのまま再生。そのたびに歌詞の引力にヤラれまくる。だって、初聴でYouTubeで聴いてるのに、「YouTubeさんから私の全部をわかった気になってライブに来ないで」って歌われたらドキッとするじゃん。

ノスタルジックJ-pop』なんて、だめんず女子ワールド全開。「ここは多機能トイレです」「ダサいからスーサイドやめた」「消化器はいらないよね 昨日のお金でパチンコするとこ見てたよ」「笑笑でもいいから帰りたくない」「せんせいあたしパーなんです」。

完全に言葉の世界の住人だ。ここまですごいと、嫉妬すらしない。でも、強い歌詞ばかりが羅列されているわけじゃなく、ふつうの調子の歌詞の合間にキュッと耳に飛び込んでくるからこそ、歌詞の世界や文脈がより印象に残る。

と思いながら、あれこれググっていたら、去年メジャデビューしたときのインタビューでそういうくだりがあった。以下、「ナタリー」から引用。
この「ノスタルジックJ-pop」も(Aメロの)「ちょっと大事すぎて気持ち悪いの」のところとか、まわりくどいしちょっと弱いんです。でも今までは本質的なことと引っ掛け以外は全部消すみたいなとこあったんだけど、今回はだいぶオッケーにしましたね。
余白がないとやっぱ聴けないんですよ、日本人って。 
http://natalie.mu/music/pp/oomoriseiko02/page/3


余白が重要なのが「日本人だから」かどうかはわからないけど、どうも昨年のメジャーデビューを機に少し歌詞の作風が変わったってことらしい。「引っ掛け」というのは、先に挙げたような強い歌詞のほか、『ミッドナイト清純異性交遊』の「春を殺して夢は光っている」というくだりとか、『君と映画』で「私のリモコン握られてる。握ってる見えないヒットラー」といった、印象に残るフレーズで耳を「引っ掛け」に行くあたりを指すんだろう。

もっとも「引っ掛け」以外の「本質的なこと」も、メロディに乗ったら強くなるフレーズ連発。ちなみに先の2本は、MVに橋本愛と蒼波純が出演していて、ショートムービーのような仕立てになっていた。かわいえいじくんの『カゲロウ』(菅野結以嬢が出演)もそうだったけど、いい曲にムービー仕立てのいいMVがつくと、人は(少なくとも僕などは)「いいもの見たなあ」と心に残ってしまう。

大森靖子に話を戻すと、言葉のセンスを置いておいても、音楽性の幅の広さにもいい意味でお口あんぐり。アレンジやメロディの幅がびっくりするくらい広い。ふつうなら、とても一人の作品として成立しないんじゃないかと思うほどいろんなエッセンスが入ってる。だいたい最初に聴いた『マジックミラー』にしても聴くたびに、いろんなアーティストが頭をよぎる。CHARAにトーレ・ヨハンソン、椎名林檎にすかんち……。つかみどころがあるようでない。そして気づけば、大森靖子の曲として脳内でリピートしてしまう。してやられた感満点。

以前、"ミュージシャン芸人"として知られる、マキタスポーツのラジオ番組に彼女がゲスト出演したときもこんなことを言っていたらしい。

『こういうの、あるある』みたいなメロディー作って、自分の歌詞を乗せるみたいな。いまの曲もだいたい、松任谷由実さんと松田聖子さんと中島みゆきさんを足して3で割ろうみたいな感じで作りました。 

「いまの曲」というのは番組中に生演奏をしたという「呪いは水色」という曲の話らしいけど、ユーミンと松田聖子と中島みゆきを足して割ろうという発想がすごい。どんなんだ。でも聞くと、確かにそんなイメージが浮かぶ。他にもどんなアーティストをモチーフとしたか想像がふくらむ曲もけっこうある。

たとえば「絶対絶望絶好調」の岡村靖幸感というか川本真琴感というか。
https://www.youtube.com/watch?v=Q_X4MBaeaik

もしくは「イミテーションガール」のPerfume感とか。
https://www.youtube.com/watch?v=WbKu4Xx0_Us

「表現は自分の中にあるものじゃなくて、通りすぎてく景色を見て、それに自分が引っかかってるだけ」というようなことを前出のナタリーのインタビューでも言っているけど、オマージュ感が前面に出ている。2013年の週刊アスキーにも、「ルールを目的にしない創造的な日本へ」というインタビュー記事が載っていた。彼女自身、椎名林檎のファンであることを隠そうともしてない。

「○○っぽい」としか人の音楽を評価できない人を、全力で馬鹿にしたかった。そんな失笑の気持ちを込めて、私は1stアルバム「魔法が使えないなら死にたい」のジャケットを、椎名○檎さんの2ndアルバム『勝訴ストリップ』のオマージュにしました。もちろん彼女のことをとても尊敬しているし、私自身ファンです。が、誰ひとり同じシンガーなんていないのに、ちょっとエモいだけで彼女の劣化コピーとうたわれ、レーベルにもそういう売り方をされ、もう100人以上のシンガーが10年以上同じことの繰り返しで潰されてきたように私には思えます。
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/179/179198/

潔くて新しい。や、こういうスタンスのアーティストはいたけど、新人でここまで言い切る人はそういなかった。先人の影響を認めながら、表面だけをなぞるでなく、精神論に走るでもない。『絶対絶望絶好調』のなかでも「エモいのは飽きたんでしょ」という、シーンへの批判とも取れる歌詞があった。それでも、売るための努力は全力でする。プロだ。

あれこれ見ているうちに、彼女が元モーニング娘。の道重さゆみの熱烈なファンだということを知る。ああ、そうか。何かのMVで「うさちゃんピース」やってたし、アイドルイベントに出演している映像もあった。好きな作詞家が、つんく♂と小室哲哉って目のつけどころが#すぎ。音楽のジャンルとレンジの広さに頭がクラクラしそうになる。

正直、ライブの映像を見ると、アイドルチックな振りつけに不思議な気持ちにもなるが、彼女自身がアイドルカルチャーの薫陶を受けているとすれば、そこに根ざした振りつけや、暗闇に揺れるサイリウムなどは、自然なことなのかも。なんでもかんでも「オイ!」って合いの手がかける客席の同調圧力は正直苦手だけれども、一度ライブに行ってみないことにはこのあたりはなんとも。

と、ライブの予定を調べてみたら、当面予定なし。それもそのはず、今年5月に妊娠5か月を発表していた(なのに、6月にライブをやっていた)。8月末にロフトプラスワンのイベントがあるけど、当然のように売り切れている。しょうがないから予習して待つとしよう。

そういえば「きゅるきゅる」のMVなんかは、デビュー当時のJUDY&MARYがまとっていた雰囲気をどことなく彷彿とさせる。そしてやっぱりこの曲の歌詞もいろいろすごいんだけど、とりわけ気に入っているのが……

「わたし性格悪いから あの子の悪口絶対いわない」

いい。すごくいい。

2015年4月27日月曜日

29日(明後日の祝日)、15時から下北沢B&Bでイベントを行う件

そういえばすっかりBlogでの告知がおろそかになっておりましたが、明後日の29日(祝)、下北沢B&Bでコラムニストの石原壮一郎さん&人気レシピサイト「あさこ食堂」のシラサカアサコさんと3人でトークイベントをやります。

お話するテーマとしては「2つ目の"仕事"とのつきあいかた、向き合い方」みたいなものを予定しておりまして、伊勢うどん大使の石原さんと、いまやカリスマレシピサイトの「あさこ食堂」のおふたりがお相手……。ということで、比較的「食」に寄った内容が予想されますが、石原さんの直近の著が『日本人の人生相談』なので、気づくとそちらのほうに話題が持っていかれる危険も穴馬党には見逃せません。

スタートは午後の15時から。終了後、夕方から下北沢のどこかで打ち上げをやると思います。よろしければお運びくださいませ。
http://bookandbeer.com/blog/event/2015042901_bt/

2015年4月11日土曜日

4月29日15時から下北沢B&Bでトークイベントを行います

29日午後に行われる下北沢B&Bでこういう謎のイベントに登壇します。


「『二足のわらじ』働き方会議〜ひとつの仕事に縛られずに生きる」~『大人の肉ドリル』『曲げわっぱと、常備菜で、おいしさぎっしり、おべんとう。』『日本人の人生相談』刊行記念 (http://bookandbeer.com/blog/event/2015042901_bt/ )


タイトルが長いとかワナビーっぽいとかいろいろなご感想をいただいておりますが、ともに登壇してくださるのが石原壮一郎さんとシラサカアサコさんという地に足のついたおふたりなので、かなり良心的かつ実学的な内容になることが予想されます。ふわふわしているのは、石原さんのお好きな伊勢うどんと僕自身くらいでしょうか。

その構成を考えるにあたって、シラサカアサコさん
と石原壮一郎さんにアンケートをお願いしたところ、早速ご返信をいただきました。お預かりしたおふたりの回答があまりにすばらしく、めったに更新されないこのブログが更新されているというわけでございます。

20年以上、メディアの第一線に立ちながら、 
伊勢うどん友の会や伊勢うどん大使としてもご活躍されるベテランコラムニストの石原壮一郎さん。月齢児を抱えながら仕事のほか あさこ食堂、 あさこ食堂 for Babiesの運営も行うママさんであるシラサカアサコさん。ご回答のはしばしからなんというか、「人が上手に暮らしていくコツ」みたいなものが感じ取れたりもするわけです。

おふたりからのご回答に目を通すだけで、ものすごく勉強になっていて、いやもうなんとありがたいことか。と言いつつ、当日ふたりに聞きたいことがまた増えておりますもので、よろしければ4月29日の昭和の日(旧・みどりの日(平成)/天皇誕生日(昭和))のお昼の時間、下北沢B&Bまでお運びくださいませ。お申し込みは↓からどうぞ。


「『二足のわらじ』働き方会議〜ひとつの仕事に縛られずに生きる」~『大人の肉ドリル』『曲げわっぱと、常備菜で、おいしさぎっしり、おべんとう。』『日本人の人生相談』刊行記念http://bookandbeer.com/blog/event/2015042901_bt/ 

2015年1月29日木曜日

本日の夕刊フジ

29日、つまり「肉の日」ということもあってか、『大人の肉ドリル』著者インタビューを掲載していただいておりますが、タブロイドの全面記事の迫力に若干後ずさり気味でございます。

2015年1月20日火曜日

『大人の肉ドリル』一時在庫切れのお詫びと、お早め入手法のご案内

いつもお世話になっております。拙著『大人の肉ドリル』ですが、発売からそろそろ2か月近くが経っているのに、いまだにAmazonの『男の料理』ランキング1位に図々しく居座らせて頂いております。cakesやNEWSポストセブン、All Aboutでの連載記事のほか、各メディアさんのほうでもご紹介を賜り、本当にありがとうございます。

本日も「Web本の雑誌」の書評コーナー「BOOK STAND」にて
「豚肉は中までしっかり火を通してから食べる」という常識は間違いだった!?
http://bookstand.webdoku.jp/news/2015/01/20/073000.html

と、ご紹介をいただいたところ、
Amazon(http://www.amazon.co.jp/)とe-hon(http://www.e-hon.ne.jp/)の在庫が一時切れを起こしております。ご迷惑をおかけしてたいへん申し訳ございません。

しかしながら、リアル書店さんやリアル書店系のネット通販ではまだ在庫のご用意があるようです。何かの拍子に気にかけてくださって「すぐ読みたい!」という方は以下のほうからどうぞよろしくお願い申し上げます。実際の路面店のほうは各店舗ごとに状況が異なると思われますので、お近くのお店にお問い合わせくださいませ。お手数をおかけしてたいへん恐れいりますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

・紀伊國屋書店
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784838727230

・丸善ジュンク堂
http://www.junkudo.co.jp/mj/products/detail.php?product_id=3000286123

・TSUTAYA
http://shop.tsutaya.co.jp/%E5%A4%A7%E4%BA%BA%E3%81%AE%E8%82%89%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%AB-%E8%82%89%E3%83%90%E3%82%AB%E7%A7%98%E8%94%B5%E3%83%AC%E3%82%B7%E3%83%94-%E6%9D%BE%E6%B5%A6%E9%81%94%E4%B9%9F/product-book-9784838727230/




2015年1月6日火曜日

MODERNIST CUISINEの衝撃。

とうとうやってしまいました。ずーっとガマンしてたんですが、もう限界でした。何の話かというと、こちらの方の話です。



や、この方、マイクロソフト元CTOのネイサン・ミアボルドがやってきたわけじゃありません。やってきたのはこの人がプロデュースした巨大で超重い洋書の調理百科事典(のようなもの)。"MODERNIST CUISINE: The Art and Science of Cooking" です。



全巻セットの重量はAmazon.comの重量表示で52.2pounds(kg換算すると23.6775217 kg)。2Lのペットボトル6本入り2ケース分にも相当します。配達してくれたヤマトの兄ちゃんのあれほどぐったりした顔を初めて見ました。

概要は、こちら(http://www.fashion-press.net/news/3038 )。料理書です。アメリカでは2011年に出版されていて、ずっと訳書を心待ちにしていたのですが、3年たっても訳書が出ない。というわけで、しびれを切らしてロクに英語も読めないのに、6冊セットで500ドル以上もする洋書をAmazonで注文してしまったわけです。

注文後、Amazonから「誠に申し訳ございませんが、以下のご注文商品の入荷が遅れているため、やむを得ずお届け予定日を変更させていただきました。キャンセルも可能です」というメールが来て、「やっぱ(高いし)キャンセルしようかな……」とも思ったのですが、なんとか耐え忍びました。結果から言うと初志貫徹してよかった! コラムニストの石原壮一郎さんが、拙著『大人の肉ドリル』の書評の書き出しで「バカが書いたどうかしている本です。」と絶賛してくださいましたが、本当にバカでどうかしているのはこの本のほうでした。素晴らしすぎます。

そんな極厚×激重なセット本の各タイトルは、以下のとおり。
1.History and Fundamentals(歴史と基礎)
2.Techniques and Equipment(技術と機材)
3.Animals and Plants(動物と植物)
4.Ingredients and Preparations(成分と準備)
5.Plated-Dish Recipes((盛りつけ?)レシピ)
6.Kitchen Manual

中面を開くと、ビジュアル、テキスト、表組のすべてから(分子)調理科学の最先端を行ってやろうという気概がひしひしと伝わってきます。ビジュアルひとつとってもそう。そこかしこに散りばめられた顕微鏡写真は学術論文では見たことがないほど美しく、物理的にブッタ切った写真(熾きた炭火&食材込みのWeberのBBQグリル、肉を挽いている途中のミートミンサー、炒めもので鍋ふりしている最中の中華鍋)など、どうやって切ってどう撮影したんだ的ビジュアルは眼球への引力が半端じゃありません。


しかし何よりこの本がすごいのは、ここまで手をかけたビジュアルが、あくまで"釣り"要素でしかないところ。情報の濃度密度変態度((C)小石原はるかさん)が強力すぎるわけです。例えばこの本が出版された2011年3月時点では、USDA(アメリカ合衆国農務省)による豚肉の加熱基準は中心温度71℃とされていました。しかし"MODERNIST CUISINE: The Art and Science of Cooking"には、アメリカ連邦政府の"安全基準"である61℃1分など、その他の基準も紹介されています。


実は食肉の加熱基準はとても曖昧で、日本でも63℃30分と75℃1分が混在していたり(厚生労働省はこのふたつを「同等」と言っていますが、63℃30秒は75℃に置き換えると5秒相当に当たるはず)、誰が何を基準に言っているのかよくわからないということがよくあります。このシリーズでも1巻のP179にこんなキャプションがあります。

Some food safety rules have evolved to reflect that pork cooked at lower temperatures is safe; others have not. Most cooks and cookbook authors insist that the higher temperature is the only one that will eliminate contamination. They are wrong.
自分の英語力にまったく自信がないので、信頼度が高いとされる英訳サイトに貼りつけたところ、以下のように訳されました。
若干の食品の安全規則は、低い温度で料理されるポークが安全であると思うために進化しました;他は、そうしませんでした。大部分のコックと料理の本著者は、より高い温度が汚染を排除するただ一人の人であると主張します。彼らは間違っています。
意訳すると「食品の加熱基準は、古臭い高温基準と、豚肉に象徴されるようによりおいしく食べられる低温へと進化した基準がある。 多くのコックと料理書の著者は昔ながらの温度でないと食中毒の危険は排除できないというが、それは間違いだ」ということのようです。

そして因果関係はわかりませんが、この本が出た2ヶ月後、USDAは豚肉の加熱基準を71℃から63℃3分に改めています。ちなみに同書内では鶏肉の加熱基準も、USDA基準の「74℃(no time given)」という昔ながらの高温から、2007年に微生物学者のVijay K. Junejaが(サルモネラ菌を除去する温度の研究結果として)発表した「胸肉62.5℃4分17秒」「もも肉62.5℃5分28秒」まで、かなり細かくさまざまな機関が設定した温度基準が掲載されています。

そうした"安全基準"を前段に書いた上で、3巻の"Animals and Plants"には肉ごとに「レア/ミディアムレア/ピンク/ミディアム」の温度帯を記した表組が掲載されています(下部の「俺たちの好みの温度帯にマーカーを引いておいたぜ」というキャプションがなんだかアメリカっぽい)。表内では牛、豚、鳥、羊のほか、ダチョウやうさぎなどに至るまで「おいしい(と彼らが考えている)温度帯」にマーカーが引かれていて、しかも動物によっては部位ごとに最適温度が異なっています。例えば牛ならば、フィレ(ヒレ/ヘレ)は50℃、フランク(ともバラのもも側)56℃、ハンガー(ハラミやサガリ)58℃など。豚や鳥も複数の部位の加熱基準が書かれています。

それにしても! ざっと目を通してみると、訳書が出ていないのがあらためて悔しいしつらえ。だって本書内では築地市場も紹介されているし、各レシピ中には醤油(Soy Sauce)や味噌(Miso)も登場します。"YAKITORI"のレシピにはさらりと"Mirin"の表記も。ほかにも昆布やひじきなどの海藻類や、干ししいたけに舞茸など日本の食材がそこかしこに。なのに、なぜ日本語版が出版されないのか。

洋書を買ってしまった以上、訳書が出版されたとしてもほいほい手を出せるかという意地のようなものやサイフ事情もありますが、訳書につきものの誤訳&誤植探しという楽しみにたどり着くことのない語学力のせいで、きっと手に入れてしまうと思われます。何万出しても読みたいと思っている方、結構いらっしゃると思うんだけどなあ……。蛮勇あふれる出版社さんの挙手を心待ちにしております。

2015年1月4日日曜日

お参りの長い人は何をお願いしているのか(新年、あけましておめでとうございます)

この10年くらい、神社へのお参りをわりとちゃんとやるようになりました。実は僕が初詣にまつわる作法あれこれを知ったのは30歳を過ぎてからでした。当初は大人のたしなみを知っておくという意識もあった気もしますし、自営業者やフリーランスとしての願掛け的な意味もありました。そして実際に正しいお参りや詣で方をするようになると、確かに心持ちが変わるのです。といっても、いわゆる"オカルト"的なものではありません(そういうのも好きではあるんですが、いったん置いておきます)。

初詣というと「△△できますように」とお願いごとをする人が多いのでしょうか。僕も以前はそうでした。でもここしばらくは初詣の際「お願いごと」はしていません。以前、ある宮司さんから初詣とは「誓い」の場であるという話を伺ったことがあります。ものすごくざっくり言うと、神様の前で自らに「制約と誓約」((C)HUNTER×HUNTER)を課す。そうして立てた誓約に沿って行動すると、ご利益を受けやすい環境が整う。そういうもののようです。といってもせっかくごあいさつに伺うわけですから、「神様とお近づきに(仲良く)」なろうとはしています。「苦しいときの神頼み」と言いますが、やっぱり神様からも覚えがいいほうが、ここ一番でいいことがありそうな気もしますし。

というわけで、今年の元旦も、近所の氏神様と明治神宮と花園神社に新年のごあいさつに行って参りました。初詣の目的は新年のごあいさつとともに、去年のおふだを納めて、新しいおふだを受けること。神棚を祀っている方はよくご存じだと思いますが、神棚のおふだにはいくつか種類があります。

・受けるおふだは3種類
自宅や職場の神棚にまつるおふだはたいていの場合、3種類程度。まず、全国共通の「神宮大麻」、そして地域を守る鎮守様=氏神様のおふだ、それに崇敬神社のおふだの3種類です。「神宮大麻」はほぼ全国の神社にありますから、氏神様のおふだと合わせた2種類は近所の神社で入手できます。崇敬神社は地縁と関係なく、個人的に「いいな」と思う神社を自由に崇めることができるので、お気に入りの神社で入手されるといいと思います。八百万(やおよろず)の神々は基本的に仲がいいというお話なので、それぞれ自分の暮らしにご利益がありそうな神様を頼ればいいようです。

ちなみに僕は「芸道」の神様である新宿の花園神社を崇敬神社としています。執筆・編集業は広義では「芸」となるので、出版業界にはこちらに新年のあいさつをされる方がけっこういらっしゃいます。ちなみに境内にある摂社の芸能浅間神社も、演劇や歌曲など芸能関係の奉納が多いことで有名です。実はこのブログを書くにあたって、花園神社のHPを確認したところ、なんと御祭神は酒造の神様としても知られる木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)! Wikipediaによれば全国に約1300ある「浅間神社」に祀られているということをいまさらながらに知りました。このところ、公私ともに酒漬けなので、今後ともまじめにお参りしていこうと心に誓った次第であります。

ここ最近の僕の定番コースとしては、近所の氏神様で「神宮大麻」と氏神様のおふだを受けつつ初詣。そこから移動して明治神宮に参拝→移動して花園神社の本殿と境内にある芸能浅間神社にもお参りしつつ、花園神社のおふだを受けます。おふだは神様との間をとりもつチャネルのようなものだと解釈しているので、おふだがあればいいという方もいらっしゃりそうですが、ごあいさつをしたほうがチャネルがより効果的に機能しそうな気がします(逆もまた真なり)。このあたりは人間関係と似たようなものだと勝手に解釈しています。

・お参りのお作法
さて実際のお参りですが、手水舎(ちょうずや)でのお清めなど、基本的な作法はなるべく行います。ちなみにYouTubeなどを見ていると、手水舎でのお浄めの作法もいろいろあるようですが、左手→右手→口→柄杓の柄の順という作法が好きです(https://www.youtube.com/watch?v=-omlG4JBuOw)。

・「お参りが長い」その理由
その後、本殿前の賽銭箱にお賽銭を入れ、二礼二拍手一礼となるわけですが、いろいろご存じの方はこの後のごあいさつが長い。でも仕方がありません。新年くらいはきちんとごあいさつしなければ。僕の場合、新年のあいさつは、たとえば次のような口上を脳内で黙読しています。

「●●様(①神様の名前) あけましておめでとうございます。私、東京都✗✗(②住所:地番、部屋番号まで)に住まっております、③昭和64年④酉年11月17日生まれの⑤松浦達也と申します。⑥本日は新年のごあいさつに伺いました。⑦旧年中はたいへんなご加護を賜り、誠にありがとうございました。⑧本年も仕事に✗✗(その年のテーマ)に精進してまいる所存ですので、⑨引き続きご加護を賜われれば幸甚でございます。最後に⑩●●様(神様)のご健勝、ご清栄、ご発展を祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。⑪それでは本日はこれにて失礼致します」

意味もなく生まれ年でサバを読んでみましたが、だいたい普段のお参りからこれくらいの情報量を盛り込んでいます。分解すると
①神様の名前(神社名や地方で立ち寄ったとき、名前がよくわからなければ「神様」と呼ぶことも)
②自分の住所(八百万ネットワークで検索してもらいやすいように)
③生年月日(個人ID)
④干支(個人IDが格納してあるであろう神様のフォルダ検索仕様)
⑤氏名
⑥本日立ち寄った経緯(たまたま、旅先、所用なども含む)
⑦昨年の御礼(「いつも」などのパターンも)
⑧誓約
⑨ご加護依頼
⑩僭越ながら神様へもエール(そのほうが喜ばれるらしい)
⑪〆のあいさつ

というのが基本パターンです。「どうか✗✗できますように」という"お願い"ではなく、自分の身分を明らかにしながらごあいさつをする。そして前年の誓約の達成度に思いを馳せながら、今年の誓いを立てつつ、相手(神様)の事情にも心を配る。どうやったって30秒以上かかります。実はこのパターン、以前、ある宮司さんから伺った神様相手のあいさつのフォーマットに則ったものですが、重要なのは⑧の「誓約」の前に、⑦の「御礼」があること。ここで去年の誓約の達成度とも向き合うことになります。ふだんのお参りなら、日常の「振り返り」の行為にもなるわけです。

つまり、神社とのお付き合いのなかには、自然にPDCAサイクル的な要素が含まれているわけで、ビジネス系の駄本を読むくらいだったら神社に行ったほうが気分もよくなりますし、そもそもビジネス書の目次を思い返すと、並んでいるのはおみくじのような文言。ならばおみくじでいいじゃないかと思いつつ、本年のおみくじを見返してみました。


左の花園神社のおみくじはもうおっしゃるとおりで、「自分のネットワークをフル稼働させ、正直にそして真摯に前へ進め。ヤバいと思ったら止まって考えましょう。あ、ズルもあきませんよ」というような感じでしょうか。一方、右の明治神宮のおみくじの解釈は悩みました。まあ「国民の自覚を強くし責任を重んじる」となると、できるかぎり多くの税金を払うくらいのことしか思い浮かびません。というわけで、本年もささやかながら法人税と消費税をお支払いできるよう、仕事をがんばってまいろうと思う次第でございます。