2016年4月2日土曜日

マンガ大賞の楽しみ方&2016一次選考推薦コメント

本年もマンガ大賞2016が発表されました。大賞は野田サトルさんの『ゴールデンカムイ』。マンガ好きの書き手として何かしら賞のお役に立たねば、ということで、サボり倒しているエキサイトレビューさんに授賞式レポート含めた作品レビューを書くのが通例となって参りました。

さて、個人的にはマンガ大賞の醍醐味は一次選考にあり、と思っている次第であります。一次は選考員が好き放題に票を投じるので、その選考員の嗜好がわかりやすい。つまり、ベンチマークにすべき選考員が見つけやすいというステージでもあります。というわけで、「好きなマンガが上位に来なかったな……」という人向け(というわけでもないですが)に、こちらに本年の全選考員のコメントがUPされております。

本年の1次、2次全選考員コメント
http://www.mangataisho.com/data/2016/comment2016.pdf


ここで他の選考員のコメントを読むのと、一次選考後、未読のノミネート作品を読むのがもう楽しみで!

ここから趣味の合う選考員を探す

その人が一次選考で推している作品をチェックする

二次選考でどの作品に投票したかをチェックする

というような形でも新しい作品に出会えたりするのも楽しいところ。一応、以下に僕の一次選考時の推薦コメント貼りつけておきます。

ちなみに僕が二次選考て票を投じたのは以下の三作品。

一位 僕だけがいない街
二位 BLUE GIANT
三位 ゴールデンカムイ


そして一次選考で票を投じたのは以下5作品になります。一応、Amazonリンクも貼っておきますが、マンガは(リアル財布事情なども鑑みつつ)書店であれこれ迷いながら手に取るのがやっぱり楽しいと思うわけです。いや本当、昭和ですみません。


[ 作品タイトル1 ] 僕だけがいない街
[ 作者名1 ] 三部けい
[ コメント1 ] 3年連続で票を投じさせていただく。間違いなく日本マンガ史上に残るであろうサスペンスマンガ(万一今後の展開やエンディングがそうならなかったら、作品のファンは悲しみにくれると思う)。ストーリーとしては前半の山場を超えて、いよいよここから大きく展開するであろうところ。読み手にとっての気は熟した。張り巡らされた伏線はどのように回収されていくのか。 5巻までのじりじりするような構成は読み手にとっては楽しみでもあったが、次巻を待つのがつらい展開でもあった。物語が一気に展開したいまなら、一気読みから次巻以降への思いを巡らせることができるはず。恐らくは残り巻数もそう多くはない。リアルタイムで歴史の証人になるのはいま!
※すでに連載は終了。最終巻の8巻も4月26日の発売が決定していますが、一次選考
投票時は、連載終了含め、未発表でした。二次でも一位に投票。



[ 作品タイトル2 ] BLUE GIANT
[ 作者名2 ] 石塚真一
[ コメント2 ] 第一回マンガ大賞を『岳』で受賞している石塚真一の新境地。世にジャズをモチーフにしたマンガは少ない。日本のジャズマーケットとのサイズとも無縁ではないだろうし、「舞台がジャズでなければならない強固な理由」が見えづらいというような理由もあるかもしれない。だがこのマンガはジャズでなければならない。生々しい音圧にメンバー間の熱いやりとり。回を追うごとに物語を担うバンドメンバー3人のそれぞれの人間くささが、共感できるような温度でよりくっきりと描かれるようになった。いよいよ物語が大きく動き出しそうないま、まさに読み頃です。
※これも二次でも投票。骨太なスケール感。以前、チラ読みしてしっくり来なかったという方には、ぜひ通し読みをおすすめします。音楽経験者にはジャンル問わず、特におすすめ。

[ 作品タイトル3 ] 東京タラレバ娘
[ 作者名3 ] 東村アキコ
[ コメント3 ] 昨年の大賞受賞者を推すのは気が引けなくもない。でも面白いのだから仕方がない。描かれているのは、仕事をしながら東京で暮らすアラサーシングル女性3人組のちょっとアレな恋愛模様。不倫&セカンドに走る女性はいつの時代もいる。でも、いま世の中に受け入れられている(ように見える)のは、切り上げ時を見失う男女が増えたからか、単純に可視化されるようになったからか、はたまたそういう交際のあり方が肯定されるようになったからか。「働く女性のマンガ」として『働きマン』(安野モヨコ)のB面的な捉え方をするなら、いまを生きる日本人はまだ「身の丈サイズの幸せ人生の型」を見つけられていないのかも。男性も深く潜って読むといいと思える作品。『ヒモザイル』復活も祈念。
※授賞式で著者が「最近では、周囲から「ホラーマンガと言われる」と笑いを取っていたが、『かくかくしかじか』でも炸裂していた、切なげな心理描写はもう匠の域。個人的には大好きだけど、誰におすすめすべきかちょっと迷ったので二次では『ゴールデンカムイ』と入れ替えに。

[ 作品タイトル4 ] あれよ星屑
[ 作者名4 ] 山田参助
[ コメント4 ] 戦後の混乱期を描いた「焼け跡ブロマンス」だそうだが、このオビには語弊があると思う。Wikipediaによると「ブロマンス」とは「broもしくはbrother(兄弟)とromance(ロマンス)のかばん語」で「一般的なホモソーシャル行為と歴史的な恋愛的友情の2つに区別される」……ってそういう作品だろうか……。画風はさておき、描かれているのはさまざまな業を背負いながらもたくましく生きていく人間の姿。 言うなれば「焼け跡人間賛歌」。時代や立場によって感情や正義はうつろう。頼りないいまにどう立ち向かい、どう生きるべきか。このマンガは現代に暮らす読み手自身の生き様を問うている。
※当然、二次に進むだろうと思っていたので、ノミネートに至らなかったのが超意外な作品。確かに戦後の混乱期の様子や画風など苦手な人はいるだろうけど、ぬくぬくとした現代に暮らすわれわれこそ読むべき作品だと思うんすよね。いや本当、僕らは恵まれてます。

[ 作品タイトル5 ] 天国ニョーボ
[ 作者名5 ] 須賀原洋行
[ コメント5 ] 『気分は形而上』で作者の奥様をモデルとした「よしえサン」のファンになってから四半世紀。前作の「実在ゲキウマ地酒日記」の最終回で夫唱婦随の奥様が亡くなったことを知り、ひとりのファン(作者に対しても「よしえサン」に対しても)としてショックを受けた。心のなかでお悔やみを申し上げながら、いつかまたペンを手にとってくださることを祈っていた。そこに、発明的とも言えるほどとんでもないたてつけの作品でのカムバック。この1巻には票を入れざるを得ません。
※一次選考で投票したなかで、個人的な思い入れ全開で票を投じた唯一の作品。旧作を読んでない人にはどう響くかわからないけど、描き手の側もマンガに救われることがあるということを、教えられました。第一話を連載で呼んだときには、ボロボロ泣いたなあ。