2013年4月20日土曜日

ターレと築地の男とマグロ包丁

このニュース、けが人もなかったのが、まずは何より。産経新聞さんから引用です。

築地市場でマグロ解体用の包丁振り回す 殺人未遂容疑で63歳男を逮捕 警視庁

東京・築地市場で警察官に向かって包丁を振り回したとして、警視庁築地署は19日、殺人未遂などの疑いで、東京都中野区中野、職業不詳、根上隆容疑者(63)を現行犯逮捕した。同署によると、「正当防衛で、逮捕は不当だ」と供述している。
 逮捕容疑は、19日午前8時10分ごろ、中央区築地の築地市場内で、「殺してやる」などと叫びながら刃渡り72センチのマグロ解体用の包丁を振り回し、同署の男性巡査部長(59)に切りかかったとしている。巡査部長にけがはなかった。
 同署によると、根上容疑者は魚を購入しようとして、市場関係者とトラブルになったとみられ、「仕事中にしつこく話しかけてくる不審な男がいる」と近くの交番に連絡。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130419/crm13041914560002-n1.htm

気の荒い市場の男たちの仕事道具を奪って、斬りかかるなど、いろんな意味で命知らずもいいところではございますが、一般紙各紙の情報はだいたい他紙も同様で、微妙に落としこみのチューニングが違う程度というところでしょうか。

上記の産経さんのまとめは以下の通り。事実をコンパクトに書く、まさに報道の王道といえる記事でございます。

根上容疑者は事情を聴こうとした巡査部長を振り切って逃走したが、包丁を持って戻り、襲いかかったという。


一方、東京新聞さんのまとめはこう。

当時、市場には外国人ら多くの観光客がいて、一時騒然とした。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013041901001585.html

記事の構成は大きくは変わりませんが、「東京」の冠を持つ矜持か、「外国人ら多くの観光客」に焦点を当て、コントラスト満点の臨場感を演出。もっともいまの築地の観光客は中国・韓国からの方が多いので、もしかすると誤解を招きかねないような気もしますが、恐らくこれも狙いすましたゴルゴ13的一撃と思われます。ちなみに産経さんの本社は千代田区大手町、東京新聞さんは内幸町。

ところが、市場にほど近い築地に本社を置く朝日新聞さんとなると、落としこみが変わります。さすがの臨場感。
http://www.asahi.com/national/update/0419/TKY201304190089.html
巡査部長は警棒で応戦し、市場関係者らも自転車を投げつけるなどした。男は近くに止めていた自分のワゴン車に乗り込み急発進しようとしたが、巡査部長が窓をたたき割り、取り押さえた。

そして何より振るっていたのが、朝日と同じく築地に本社を置く日刊スポーツさん。前段の基礎情報は一般紙各紙とほぼ同様ですが、コメントの取り方や後半の落とし込みが素晴らしい。まさにこれぞスポーツ紙的ドキュメンタリーと言っても過言ではありません。


築地市場内乱闘犯 ターレで包囲し捕獲

http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20130420-1115029.html
築地署によると、事件の直前に市場関係者が近くの交番を訪れ、不審な男がいると通報。巡査部長が駆けつけると根上容疑者が突然逃げ出したという。包丁を奪われたマグロ仲卸店の男性従業員(43)は「バケツに入っていたマグロ包丁を奪われました。突然のことでびっくりしました。目が血走っていて危ない男だと思った」と興奮気味に話した。
 その後、根上容疑者は車で逃げようと包丁を振り回しながら駐車場まで移動した。現場を目撃した、市場内ののり店で働く高島将司さん(23)によると、「(容疑者が)車を動かしたけど場内の人がターレ(小型運搬車)で体当たりして、4台のターレで取り囲みました」。さらに、屈強な市場関係者たちも続々と集まり包囲し、逃走を阻止した。根上容疑者は車内でも包丁を振り回し威嚇していたが、市場関係者らと警官が車の窓を割るなどして取り押さえた。足を取り押さえた、配送業の佐藤勝俊さん(44)は「この市場で逃げられるはずないですよ。みんな気性が荒い人たちなんだから」と胸を張った。

ちなみに「ターレ」というのはこちら(http://www.ukemochi.com/tkg/tuur/tuur.html)。場内を縦横無尽に走り回る、小型運搬機で、数年前までは、お行儀の悪い外国人やおばちゃん観光客などが、わざとじゃないかと思えるような精度で軽く轢かれたりする姿もお見かけしました。その旋回力、運搬力において、他のどんなモビリティの追随も許さぬ、場内最強の機動力を誇るマシンです。


「ターレ」という一般には通じるはずのない築地用語をさらっと見出しに持ってきた上に容疑者を「捕獲」という、まるでマグロか何かのような扱い。「俺たちの築地で何してる!」という怒りをグッとこらえて見事にエンターテインメントに昇華。立派な刑事事件なのに、スポーツ紙らしく「乱闘」で片付けているのも実におしゃれ。ついでに記事前半では「マグロ解体用の包丁」とあったのが、コメント内では「マグロ包丁」と築地用語的なチューニングがほどこされ、もうこれは場内の「高はし」の魚定食や「センリ軒」のカツサンドが食べたくなって仕方がありません。お腹すいた。


ともあれ世界に誇る「Tsukiji」の場内で、こんなご乱行が許されるわけもないのですが、日本経済において、ある意味根幹とも言える東京の台所でこんな大事件が起きているのに、なぜ天下の読売さんや日経さんが報じないのか。築地の朝日さんに対するルサンチマンか、何らかの陰謀かなどとありもしない妄想を膨らましながら、通常業務に戻ります。


※追記

YouTube

http://www.youtube.com/watch?v=lAXSxKwrLyA

NAVERまとめ
http://matome.naver.jp/odai/2136633638327618501

※再追記
この動画を見たTwitter住民さんの一部で「築地こわい」という感想が漏れ聞こえてきておりますが、現在の築地のおっちゃんたちは、普通にしていればとてもやさしいです。お気軽に足をお運びになることをおすすめしますです。

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