2014年3月13日木曜日

『ストーリー311』に学ぶ、「企画する」ということ

企画を立案し、効果的に実行するのはいつも難しい。原稿でもイベントでも難しさは同じ。企画が弱いと世の中に届かない。かといって、妙な強さが悪目立ちすると誰かを傷つけたり、不快にしかねない。そして企画の柱がしっかりしていないと、誰のためのどんな企画かわからなくなる。だからこそ、どんな規模のどんな企画でも、とりわけ震災関係の企画は、土台を強固に作る必要がある――。というエントリーを書こうと思っていますが、書き進めるうちにどうなるかはわかりません。申し訳ありません。

ちょっと前、次のような原稿をニュースサイト(エキサイトレビュー)に書きました。かなりフラフラの状態で書いた突貫原稿なので日本語がちょっと恥ずかしく、いまさら修正するのもそれはそれで恥ずかしいのでどうしようか迷ってるというのは余談です。

どう発信すれば誰に届くのか。漫画で描き残す東日本大震災『ストーリー311』の選択
http://www.excite.co.jp/News/reviewbook/20140311/E1394480788315.html

"震災企画"の難しさは、被災地とそれ以外の地域で、「震災」の捉え方がまったく違うところに象徴されます。まず企画立案の前に「目線の高さ」「感情の温度」「利用感」といった、「気持ちとコミュニケーション」の土台をかためなければならない。ざっくり言うと、かためるべきは以下のようなポイントでしょうか。

  1. (主に東京など他地域でスタートした企画の場合)、目線は高くないか。企画側・発信側が「施し」の満足感・優越感に浸っていないか。
  2. (特に地元や近い人からスタートした企画の場合)、発信者として冷静さを失っていないか。地元以外に暮らす人にきちんと届く設計ができそうか。
  3. 「震災を利用」していないか。

どの項目でも、人の受け取り方は異なるわけで、動機が100%善意によるものでも、ある人がどんなにうれしいと感じる行動でも、人によっては不快だと感じることもある。「感情とコミュニケーション」のさじ加減はいつも難しいわけです。日常がそうであるように。

1.は「布施」とか「喜捨」(http://puchishugyou.blogspot.jp/2008/10/blog-post_22.html )のような心の持ち方があれば、誰もが互いにフラットな関係を築くことができるはずですが、「目線の高さ」はあちこちで間違える人が続出するほど、ゼロから伝えるのは超難しいわけで、細かくはさておき、日本語としては「☓☓してあげる」禁止ということで、よろしくお願い申し上げます。

2.は「正しい」という主張を捨てられるか。言いたいことをそのまま大声で叫んでも何も伝わりません。伝えたいことをぎゅうぎゅうと絞って、最終的に伝えたいことを絞り出して、さらに加工して物事は初めて伝わるようになります。伝えたいことのために、言いたいことを切り捨てる覚悟と、その一方で絶対に捨てちゃいけないものを見極める審美眼が必要だと思われます。

3.でありがちなのは、動機が善意でありさえすれば、許される、認められるという勘違い。例えば、去年あたりからこんな活動がときおり目に飛び込んできます。

京都)東北支援へ学生バス 活動費は大人の寄付
http://www.asahi.com/articles/ASG2K41Y1G2KPLZB00K.html

動機は善意なんでしょう。でも大学生なら交通費と民宿代くらいバイトで稼げるはず。深夜バスなら片道数千円でわりとどこにでも行ける。「授業以外は比較的時間に余裕がある」なら交通費・宿泊費を自力で稼げばいいじゃまいかという気がしてしまいます。学生さんは本気でいいことしてるつもりなんだろうけど、人のカネで現地入りすることに気が引けたりしないんでしょうか。小中学校のとき「こづかいしかもらってない人間が人におごってはいけない」と親御さんから習わなかったろうか。そして、大人も叱るべきは叱らないと。無責任に背中を押すのが大人の仕事ではない気がします。

一方、『ストーリー311』プロジェクトは、今回の資金調達にあたり、クラウドファンディングという手法を選択しました。
http://shootingstar.jp/projects/357

出資を募って、その対価としてマンガ家の手によるSNS用アイコンや、サイン本、打ち上げへの参加権など、出資者の価値に見合うものを提供する。マンガ家には普段からSNSなどで「誰に何を届けるか」を考えている人も多い。だからこそ、価値の等価交換をきちんと成立させられる。しかも取り組みが目新しいから、ニュースとしての価値も生まれる。報道されると、この本の存在、ひいては震災の記憶が伝播し、刻まれる。本が売れる過程で「震災の記憶」をさまざまな形で残していくことができるわけです。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1311/22/news097.html

『ストーリー311』の土台は、前巻のプロローグで、発起人のひうらさとるさんが描いていた「一番大切なことは"被災者ではない私たちが普段通りの"日常生活"を送ることではないか」「なにか少しでも私たちにできることはないんだろうか……」という思いにあるんでしょう。

そしてきっとその根底には「何をどこまで描いていいのか」「この表現で誰かを傷つけやしないか」「でも、表現を丸めて、あの震災を知らない人に届くのか」という、やさしい迷いがいつも流れている気がします。真剣な支援を目指すからこそ、作家は迷うわけです。それでも迷いながら、「作品」という形でその時点での結論を出さなければならない。迷いの積み重ねが読者の心に響くような作品となり、支援につながっていくわけです。

取材や執筆のタイミングが異なれば、拾い上げる要素や表現の手法も変わるのはごく自然な話で、今年の版には去年の続編もあれば、原発作業員を描いたまったく違う切り口の作品なども盛り込まれました。作品のバリエーションや層の厚みが増し、全体により立体的になったと言える気がします。

ざっくり性格を色分けすると、Webでの連載からコミックスとなった2013年版は「2012~2013年のできごと」、クラウドファンディングをベースに資金調達をした2014年版は「それぞれのこれから」。2014年度版は海外展開も決まったそうです。展開の形や時期が明らかになったら、1500万いいね! を誇るTokyo Otaku Mode(https://www.facebook.com/tokyootakumode )さんあたりに、ぜひ海外向けのレビューを書きたいので、関係者のみなさま、ぜひレビューの方も英訳や展開などなどご相談させてください。

『ストーリー311』のそっと寄り添うような繊細な表現の数々からは目線の高さなどみじんも感じられず、伝え方は過酷で知られるマンガ業界の第一線で活躍する作家さんならでは。「利用」ではなく「貢献したい」という思いは、「全額チャリティ」を持ち出すまでもなく、作品のそこかしこから伝わってきます。たくさん売れたらいいな。いろんな人に届くといいな。そう願わずにはいられません。

ところで昨今、いろんな分野でフィクションとノンフィクションの境目について、やいやい言われております。フィクションでもノンフィクションでも、下敷きが事実でなければ説得力は生まれませんし、どちらが上とか下とかそういう話ではありませんが、世のフィクションの多くは妄想でもなんでもなく、積み重ねられた事実をベースに作家が細密に物語を編むのだということを申し添えつつ、資料も添えておきます。

早稲田文学 記録増刊 震災とフィクションの距離
http://www.amazon.co.jp/dp/4948717053

そして肝心の『ストーリー311 あれから3年 漫画で描き残す東日本大震災』ですが、3月13日早朝現在、Amazon(http://www.amazon.co.jp/dp/4041210445/ )さんでは絶賛入荷待ち中ですが、在庫はあるところにはあるようです。
トーハンのオンライン書店、e-hon(http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033061987&Action_id=121&Sza_id=A0 )
hontoネットストア(http://honto.jp/netstore/pd-book_26056641.html )
セブンネットショッピング(http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1106371316/subno/1 )

2014年2月11日火曜日

農水省の玄関ロビーに、世界に向けた茶室が設置されるという斜め上施策

農水省玄関ロビーに茶室設置 「和」の心でおもてなし
という記事が日本食糧新聞の10日付の記事に。
http://news.nissyoku.co.jp/Contents/urn/newsml/nissyoku.co.jp/20140210/ITO20140203043509683/1

やー、どう考えても、置き場所はそこじゃないでしょう。

とは思ったものの、日本食糧新聞は有料会員じゃないと記事全文を読めないので、Google先生に聞いてみました。

すると、どうやら日本食糧新聞の報道のタイミングは不思議なくらい遅かったようで、一週間ほど前にこの茶室に素材を提供した地方の地元紙があれこれ取り上げておりました。

鳥取製の組立茶室で和文化PR 農水省で展示 (山陰中央新報/2月3日)
http://www.sanin-chuo.co.jp/news/modules/news/article.php?storyid=544029005

農水省に茶室 「和」を発信 掛川茶を提供(静岡新聞/2月4日)
http://www.at-s.com/news/detail/933008743.html

それにしても、こういう予算の使い方はどうなんでしょう。誰が思いついて、どこから横槍が入ったのかわかりませんが、不時着感満点です。農水省がBRUTUSの農業特集に3000万円落っことした(http://www.kiryuusha.com/blosxom.cgi/books/090206a.html )ときには、狙いやコミュニケーションの手法は理解できました。しかし今回は「誰に向けた」「どんなアピールなのか」、まるでわかりません。

国内各地から素材を募り、仕立てた茶室を農水省の玄関ロビーに置く。各地方からいらした陳情者の方々は、さぞかし満足して郷里にお帰りになられることでしょう。でも、どうも農水省さんの狙いは違うようです。

 「心でおもてなし、食でおもてなし」。林芳正農林水産大臣は農水省正面玄関ロビーに設置した茶室の除幕式で力強く訴えた。和食のユネスコ無形文化遺産への登録や、2020年のオリンピック・パラリンピックの招致成功など日本の文化や食にとってPRの好機となった中で、農水省は正面玄関ロビーに国産の材料をふんだんに使った茶室を3日から3月28日まで設置、来庁者に日本文化の良さを知ってもらう狙い。
なんと、農水省のロビーから世界に向けて、日本の文化や食文化を発信するという斬新な企画のようです。えっ。「世界」とは書いてない? 確かにそのとおりですが、「日本の文化や食にとってのPRの好機」というならば、「来庁者」は世界からのお客様を想定しているに違いありません。農水省を訪れるような日本人は日本の文化や食に造詣が深い方ばかりでしょう。

そしてこの茶室、果たして使えるんでしょうか。作るなら、来客をその茶室でもてなすことができる施設でこそ、PR効果は生まれるというもんです。実際に炭を熾して、茶を点てることができる本物の茶室。機能のない巨大な置物を作ったとしたなら、2か月間で何をどうしようとしたんでしょうか。もしや、その間に海外の要人が農林水産省を訪問する予定があるんでしょうか。きっとそうに違いありません。そう考えないと、やりきれません。

と思ったら、都立大の銘米穀販売店「スズノブ」のお米マイスター、西島豊造さんが「なんか、もったいないと思う」とBlogに書いてらっしゃいました。さすがに反応がお早い。
http://blog.goo.ne.jp/nishijima2468/e/907e549a04b29deb094d8492add4a0e8

どうせ置物なら、羽田や成田あたりの空港でいいじゃないですか。もしくは銀座ミツバチプロジェクト(http://www.gin-pachi.jp/ )と連携して、銀座の百貨店の屋上に設置するとか何かしらできなかったんでしょうか。ともあれ現物を見ないことには、これ以上何も申せませんので、期間中、一度くらいはのぞきに行ってみようと思います。さて本日は、以前銀座にあった、お米ギャラリー銀座(※後のごはんミュージアム……も閉館しております)に思いを馳せながら、懸案かつ佳境となっている原稿の直しに戻ります。

2014年2月1日土曜日

「えっ。吉祥寺が?」と煽り煽られ人気の街ランキング物語2013

某まとめサイトで、「人気の街ランキング1位から吉祥寺が脱落!1位はまさかのあの街でした!」という煽り感満点の見出しを拝見して、一瞬、「えっ!?」と絶句してしまいました。誰もがそうだと思うんですが、生まれ育った街の地名が登場すると、無条件に反応。うっかり脊髄反射してしまいそうになります。

ソースとなった調査はHOME'Sさんのものですね。まとめサイトへのリンクは極力はりたくないので、詳しい順位は原典でご覧くださいませ。
http://www.homes.co.jp/kurashito/life/ranking/ranking025/

【2013年、いちばん人気だった街は?】全国エリア別 年間ランキング発表!
1位 池袋
2位 荻窪
3位 大宮
4位 三軒茶屋
5位 川崎
6位 高円寺
7位 吉祥寺
8位 恵比寿
9位 葛西
10位 中野

僕の大好きな吉祥寺は7位。仰天です。不動の1位だと思っていたのに、マジか……。ところが、1位の「池袋」のキャプションを見て、「はて?」と首をひねってしまいました。

「毎年不動の人気を誇る池袋」

ですと!?

特に引っ越しとか物件を買うとか考えていないうちに、世の中はそんなことに……。都内の路線の延伸効果がこんな形になってあらわれたのか……と釣られかけたのですが、さすがにいくらなんでも僕の知っているランキングと違いすぎるので、SUUMO先生に聞いてみました。
http://suumo.jp/edit/sumi_machi/2013/kanto/

SUUMO2013
1位 吉祥寺
2位 恵比寿
3位 横浜
4位 目黒
5位 鎌倉
6位 自由が丘
7位 新宿
8位 品川
9位 表参道
10位 中目黒

安心・安定のランキングです。まさに人気不動の吉祥寺。いつかは帰りたいけど、いつの間にか高くなりすぎて、もうたまに遊びに行くくらいが関の山という状態はまだまだ続きそうです。まあ、調査元、調査方法、係数なんかが変わらなければ、そう大きくは動かないのは、自明でございます。

ちなみに調査方法やタイミングも全然違っていて
HOME'Sは「2013年の1年間に賃貸で問い合わせの多かった街」
SUUMOはネットアンケート調査(2013年1月実施)

HOME'Sは「いま、現実的に住みたいと思っている街」で、値頃感と複数路線のアクセスの良さ、つまりそこを拠点にどう動けるかという、住む人のスピード感が感じられます。現役バリバリ。動的な街ランキング。

SUUMOは「いつかは住みたいあこがれの街」。ゆったり感と街としての完結性、都内・近郊でプチ旅行的なレジャーを楽しめる街。「いつかは沖縄の離島に住みたい」と似たリタイヤマインドを感じます。静的な街ランキング。

それ以外にもあれこれ違いはあります。
HOME'S 安くて旨い店が多い。予約とかなにそれな店も
SUUMOには高くて遠い店が多い。予約してないってなにそれな店も。

HOME'S 坂が少ない。自転車でGOGO!
SUUMO 坂が多い。徒歩10分以内は歩くけど、その外はクルマで。

HOME'S 賃貸
SUUMO 億ションか戸建て

とまあ、全然属性が違うわけで、ここまで対象が違う調査から項目を引っ張ってきて「脱落」とはメディアでやったら大変な燃え様が目に浮かぶわけですが、まとめサイトさんですから仕方がありません。いつかは、2ちゃんねる以外のネタ元への配慮のお気持ちも、少しは持っていただけるといいなあと思う次第でございます。

と思ったら、どこのニュースサイトも「関東1位は吉祥寺でなく…」とか見出しを打っておりまして、こんなことで読者の時間を奪うのはどうなのかと、見出し規制すら心配になりますが、メディアに検閲とか特定秘密保護法だとかいう図書館戦争さながらの未来が見えてきかねないので、みなさん良識の範囲内で飛ばしまくるがいいですよ。少なくともニュースサイトは「ダウン!」とか「脱落」だなんて、同じ調査かのような見出しはつけちゃいけないでしょ。

いつかは、まとめサイト専用URLへの埋め込み自動課金システムとかできてほしいと思うくらいに、すっかり釣られ気分でございましたが、そういえば特定秘密保護法は未来の話しじゃありませんでしたね。たいへん失礼いたしました。

2014年1月13日月曜日

【御礼】2014年年明けうどん新年会

この間、カルチャーカルチャーで行われた「年明けうどん新年会」にいらしていただいたみなさん、ありがとうございました。個人的には、えのきどいちろうさんが、「“地方豪族チェーン”が来る」みたいなことを仰ってて、僕の2014年予想と似ていたのがとてもうれしく、さすがのキャッチ力にもうほれぼれでございました。
http://www.news-postseven.com/archives/20140105_234326.html

※しかし壇上で隣の席になって、あまりの近さに緊張しすぎて、10センチほど椅子を引いた根性なしは私でございます。

ちなみに近世のうどん事情で言うと、約100年前はまだ全国どこでも、ハレの行事や来客に合わせて自宅で打つならわしだったようで。あとはさぬきのように製粉所に小麦を持ちこんで麺と交換してもらったり、大阪あたりではうどん玉の引き売りもあったといいますが、1980年代の「三大うどん戦国時代(三大のはずなのに群雄割拠)」→2000年代の「さぬき中央うどん権時代」を経て、再び各地方のうどんに光が当たりはじめているのが、なんとも時代だなあという趣でございました。いま、無性に北海道と鹿児島のでんぷんうどんが食べてみたいです。特に鹿児島のさつまいもでんぷんうどん。どんなんなんだ。

2013年9月1日日曜日

食べログの功罪

久しぶりになんの手がかりもなく、ひとりでふらっとラーメン屋に入った。腹が減って、街に出たものの、目当ての店は土曜は日中のみ営業。近隣にある店は、一見で行くにはハードルがたかそうな店ばかりだった。よさそうな中華屋は土曜の晩に、単身向けのセットなどあるわけもない。きれいで新しいホルモン屋は、それゆえかえって一人では入りにくい。だいたい、今週何回肉を食べてるんだ。そういえば、昨日もホルモンだった。

そこで目についたラーメン屋に「えいっ」と入ってみた。外観は微妙。きれいでも汚くもなく、個人のようなチェーンのようなたたずまいだった。決め手になったのは、近隣の他の店舗はだいたい食べたことがあったのと、「ハーフセット」の充実ぶりが素晴らしかったからだ。

たいていの店の「ハーフセット」は「ラーメンと半チャーハン」とか「半ラーメンとチャーハン」みたいなものだが、ここのハーフセットは「ラーメンハーフ+チャーシュー丼ハーフ+餃子ハーフ+小鉢」で750円。店主にお願いしたところ、チャーシュー丼からごはんを抜いてつまみにしてくれた。今日の小鉢はもやしのナムル風。ビールにうってつけのセットのできあがりだ。

注文すると、すぐさま店主自ら瓶ビールと小鉢を出してくれた。もやしをつまみながらビールに口をつける。いい塩梅だ。なんだか孤独のグルメっぽい。次に、つまみチャーシューがやってくるはずだった。しかし、おそらく新人と思われる大陸系のバイト嬢が普通にチャーシュー・オン・ザ・ライスを持ってきた。

違う違う。そうじゃない。僕は、糖質制限ダイエット中である。幸い店主が気付いてくれて、「すみません。すみません」と平謝りしながら、特厚のおつまみチャーシューにしてくれた。肩ロースの煮込みチャーシューとろんとろん。ああ、ビールが進む。店主の「ラーメン、作っちゃっても大丈夫ですか?」との問いにも、お大臣気分でGOサインを出す。ラーメンもうまい。喜多方っぽい多加水麺でもちもちしている。あっさりしたスープも好みだ。やー、いい店じゃないか。

しかし、ラーメンを半分くらい平らげたところで、バイトが僕の横に伝票を置いた。あれ? まだ餃子出てないよ。あ、でもすぐ出るのかな。そうだよな。ラーメンをつまみにビールをゴクリを3往復ほど。うまい。しかし餃子は来ない。困った。とても困った。

餃子が来ないことにも、確かに困っていたのだが、実は本当に困っていたのは二つ隣の席で、とっくに食べ終わった黒いシャツをお召しになった方がスマホをイジっていることだった。

実はこの店のハーフセットの充実ぶりに気付いたきっかけは、カウンターの先客であるこの黒シャツさんだった。最初に店を探して街を徘徊していたら、黒いシャツを着た方が店頭でメニューをねめつけるように見つめていた。その後、すっと店頭から離れて何やらスマホをいじり始めていた。僕はその光景を横目に、違う店を目指したが、結局振られ、来た道を戻ってそのラーメン屋に入ったのだ。

しかし、餃子が供される前に伝票が出てきたタイミングで、気がついた。そうだ。あの方はきっと食べログユーザーだ。入店前にいったん、店頭を離れてiPhoneをイジっていたのは、食べログで点数をチェックしていたからに違いない。いかん、あの方たちはサービスにうるさい敏感だ。街のラーメン屋だろうと単価が安い店だろうと、バカみたいにサービスや気遣いを求めてくるご自身の尺度にしたがってご判断される。

大変だ。仮にレビュアーさんだったらどうしよう。さっき注文を間違えたのは僕のせいだ。「ハーフセット、チャーシュー丼をごはん抜きのつまみで」という、ややこしい注文をしたからだ。しかし、レビュアーさんだとしたら、そうした店の細かいミスにも気づいているはずだ。

ううっ。餃子が食べたい。どうしても食べたい。しかし黒シャツさんが店を出る気配はない。なんだ。こいつは。酒も飲まずにずっとiPhoneをいじっているじゃないか。まさかレビュアーさんなのか。書き込んでいるのか。うう。何を書いているんだろう。もしかして、僕がいま「餃子が出ていない」ともう一度店側のミスを指摘したら、何かネガティブなことを書いたりするんじゃないか。そんなの寝覚めが悪いじゃないか。一度考え始めると、妄想がどこまでも展開していく。

もはや妄想すること自体がつらいので、餃子をあきらめて先に店を出ようかとも考えた。だがやはり餃子も食べたい。本来なら普通に出てくるはずの餃子(3コ)だ。しかし、餃子を出せなどと言ったら、先ほどのチャーシュー丼の間違え方からして、ハーフどころか一人前の餃子をサービスで出してくるかもしれない。でもそんなには食えない。しかし先に「ハーフでいいですよ」と念を押すのもおかしな話だ。1ブロックで逆接を4回も使って、お恥ずかしい限りだが、それくらい逡巡していたとご解釈いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

何もなければ「ハーフ餃子来てない」と言えばいい。だが隣にいるのは食べログユーザーさんだ(たぶん)。別に食べログが悪いわけじゃないけど、食べログユーザーさんだ。あちこちの店主が歯切れの悪い口ぶりで「ありがたいんですけどね……」と言うレビュアーさんかもしれない。

そこではたと気がついた。もしやいまジューッと音を立てているのは、僕の餃子か。そうか。そうに違いない。あまりの空腹に気がはやっていたに違いない。ならば、すべては濡れ衣だ。お店よ、食べログよ、黒シャツさんよ。ごめんなさい。

そう思った瞬間、ようやく黒シャツさんがようやく席を立った。よし、もう餃子も焼きあがったようだ。ビールもなくなった。この餃子3コでビールをもう一本飲もう。餃子を載せた皿が数皿、トレイにのせられた。ホッとしながら、入り口近くで会計をする黒シャツさんをそっとお見送りする。なんだか食べログっぽい画面がスマホに表示されている気もするが、あまりジロジロ見るのも行儀が悪いので、フロアの方に目を向けた。

バイト嬢がトレイを持って僕のほうに向かってくる。よし、ビールを注文だ……! と意気込んだ瞬間、彼女が何か言おうとしている。そうかそうか。焦るな。まずは「お待たせしました」と言われよう。その後に「ビール1本」と言えばいいだけの話だ。さあ来い。餃子め。なんだかスローモーションに見える彼女が口を開いた。

「お下げしてもよろしいですか」。

えっ……。見るとトレーの上にあった餃子はない。店内奥の客に供されたようだ。目の前の皿が次々を下げられていく。黙って立ち上がり、僕はレジへと会計に向かった。店主が何のてらいもなく「750円です」と言う。ビール代が入っていない。もしや「餃子の分を引いてくれたのか」とも思ったが、それなら一言何か言うはずだ。一瞬、「行って来い、かな」とも思ったが、それじゃあ気持ちが落ち着かない。

「ビールもいただいてますよね」と告げた僕に店主はこう言った。

「ビールは生ですか、瓶ですか」

えっと……。そこからですか。

*********************

なんのことはない。注文を覚えられない料理店の話だ。食べログの功罪というよりも、気の小さい僕が妄想し過ぎなのだろう。

でも食べログ以前なら、普通に「ハーフ餃子、出してもらっていいですか」と告げていたはずだ。隣にいる客がどんな客だろうと、そこまでは気にしなかった。以前エキサイトレビューにも書いたように、一部ではあるが、世の中には「俺がレビューを書いたから、あそこの店は繁盛し始めた」というレビュアーさんもいらっしゃる。

飲食店の店主から食べログのレビュアーについてのグチも散々聞いてきた。はっきり言う。とても評判の悪い人が結構な数でいらっしゃる。本人にそうは告げていなくとも、ハンドルネーム名指しで「迷惑だから、あの人にはきてほしくない」と言った店主もいる。

「写真を許可された」といっても、程度というものがある。のべつ幕なしに撮りまくって、「迷惑なら言えばいい」だなんてどれだけ上から目線なのか。好みの味じゃないからといって「食べられたものではない」と書く人は、よく食べ物好きを気取れるなあ。おなかでもこわせばいいのに。

そういえば、「客のため」とレバ刺しをこっそり闇で出していた店も、このところまた保健所の締めつけが厳しくなり、裏メニューからも外す店が増えてきた。保健所だって、食べログなどはチェックしている。店に無断で写真を撮り、「レバ刺しなう」などと、友人相手の優越感に浸った投稿は自分の知らない誰かに見られている。保健所は、法律にしたがって粛々と取り締まるのがお仕事。客は好きな店の空気くらいは読むのがお作法だ。

一部の人の密かな楽しみを食べログ(のレビュアー)が世間に喧伝することで、うまいものが駆逐され、店内も「撮影禁止」になっていく。ああ、まったくもって窮屈だ。このところ、すっかり日常のネタと化したバカッター画像よりも、「レバ刺しなう」などとソーシャルに書き込むほうが遥かに悪質だということをご理解いただきたく、本日も原稿をお待ちしたり、お待たせしたりしております。

2013年8月20日火曜日

銀シャリ屋げこ亭のめし炊き仙人引退報道(誤報)のメカニズム(仮説)

銀シャリ屋げこ亭ご主人引退誤報の件、Allabout News Digの「最低賃金14円UP!」テーマに強引にまぎれこませましたが、やっぱり、一部から「わかりにくい」とお叱りをいただきました。というわけで、ゲコ亭の部分のみ、再構成してUPしておきます。
※めし炊き仙人村嶋さんご本人とお話した以外の周辺部分はウラがとれているわけではないので、あくまでBlogとしてお楽しみください。

大阪に「銀シャリ屋ゲコ亭」という定食屋さんがあります。「めし炊き仙人」と言われる82歳のご店主が50年間炊事場に立つ、全国に名を轟かせるお店です。でも、例年6月から8月は「水がよくないから」とまるっとお休みされます。

以前、取材で関わったときに聞いた話では、現在の年間売上は5000万円。うち6割以上を材料費にかけ、人件費と経費で2割。残り1~2割が利益でそこから税金を支払うという、もう飲食業界の常識からは考えられないビジネスモデルです。ご自身も「アホくさい商売でしょう」と笑い飛ばしていらっしゃいました。
数日前、全国紙の地方版に「大阪・堺の食堂 めし炊き仙人引退」という記事が流れ、ヤフーニュースが拾ったことで、ネット界隈でも食いしん坊を中心に結構な騒ぎになりました。当たり前です。地元の記者さんや周辺の飲食チェーンの方々がどの程度のご認識かわかりませんが、恐らく地元の方々が想像する以上に全国にファンの多い、伝説のお店です。

第一報は明らかに誤報です。20日現在、読売のサイトに複数のバージョンが上がっておりますが、いまだにタイトルが「大阪・堺の食堂「飯炊き仙人」今月末で引退」という言い切りバージョンも上がっております。

・8月14日記事の魚拓(Yahoo! News配信版)
・同記事の修正版

第一報がUPされ、ヤフーなどが巡回したあと、本体は修正がされたようです。主な修正点は最後に1ブロック、付け加えられていること。文末に「9月以降に経営を引き継ぐが、(中略)村嶋さんもしばらくはかまどの前に立つつもりだ」というブロックが足されています。「9月以降」というのは、そりゃそうでしょう。いつかは誰かが経営を引き継ぎます。「しばらくはかまどの前に立つ」もご本人がやる気満々です。引退なんてどこ吹く風。

ところが修正版でも、1ブロック目の文末は「今月末で引退」のまま。今年も例年通り、8月はお休みのゲコ亭において星一徹もビックリの魔送球です。タイトルが変更されていないのはレギュレーション的に何かあるのでしょうか。

それにしても報道から数日間、みなさんがなぜ誤報に気づかなかったかというと、「今月末で引退」を真に受けて「例年だと8月は休むはずだけど、今年はラストイヤーだから特別に営業してるってことかな」と勝手に解釈したり、報道を受けて飛び込みで食べに行けどもお休みで「きっと通常とは営業日が違うんだ」と思い込んでいたことが理由だと思われます。

僕は東京在住なので行って閉まっていたら痛すぎます。「とにかく営業日聞かないと」「いざとなったら深夜バス」なんてことを考えて、先週からヒマを見つけては電話をかけていたところ、昨日ようやく電話がつながりました。

んで、ご本人の口から「やー。全国からご心配いただきまして」「今年は米の生育が遅いので、9月頭よりちょっと遅め……中旬から営業する予定ですわ」「ササニシキはたぶん10月に入ってからなのでその頃いらっしゃるといいですな」「やー、まだまだやりまっせ」「がっはっは」という、あの報道はなんだったのか的な応対にこっちが拍子抜けというか、ともあれよかったよかったというわけで。

それにしてもなぜあんな報道が出たか。ちょっぴりあさっての方向に話は飛びますが、ヒントは後継の企業さんのプレスリリースにありました。
2013.08.13 日本一の飯炊き仙人「銀シャリ屋ゲコ亭」を継承します(PDF)

読売のWebが「引退」を報じたのが翌14日の朝8時台。逆算すると本記事は13日の夕刊か14日の朝刊に掲載された可能性が高く、ブーストかかりまくったプレスリリースを目にしたか、耳にした内輪話を仙人に当てずに書いちゃったとか、そんな感じかと思われます。

もっとも、この数年ゲコ亭の店内には「銀シャリ屋げこ亭の50年の味伝授します 御相談下さい あるじ」という貼り紙が掲出されていました。後継探しに苦労されていたというお話も伺っていたので、ゆくゆくは先のプレスリリースの企業さんがお引き受けになる道筋がついたとかそういう話なのでしょうが、プレスリリースはもう少し上手に打たれることをおすすめします。

ご本人がいますぐ引退するおつもりもないのに、「2代目主人を☓☓☓☓(社長の名前)が継承します」とリリースのタイトルに打たれて、仙人のファンから反感を買ったりしないでしょうか。炊事場を開襟シャツ&スーツで闊歩するお写真がありましたが、この格好で米は研げるのか、スーツは汚れないのかなどあれこれ心配です。

文章にも「この数か月間は準備期間として、事前に当社の社員が店舗に入り込み」って盗っ人じゃないんですから、「お邪魔して」などの文言にしましょう。店から何か、もしくは店自体を盗んだりするんじゃないかと誤解されるリスクが危険でヤバイです。さらには例年ゲコ亭は6~8月がお休みなのに、リリースの最後に「6月から8月の間は改装を含めた準備期間として休店し、2代目「銀シャリ屋ゲコ亭」は 9月よりオープン致します。 」と仙人ご本人からは聞こえてこない経営移転を前提とした〆になっているなど、いろいろ冗談のセンスが斜め上すぎて、凡人の僕にはどうリアクションしたらいいのかよくわかりません。

どんな意図でリリースをあの文面にされたのかわかりませんが、店を継ぐつもりがおありなら、もう少しゲコ亭のファンの方々に愛されるようなリリースをお打ちになられたほうがいいと思われます。あまりにも村嶋さんの口ぶりと食い違っていて、何か行き違いがないか心配しているうちに、もりもりごはんを食べ進んでしまいそうです。

リリースを鵜呑みにしたかのような某全国紙の誤報のカッ飛ばし方はやっちゃった感満点ですし、その後の修正のとってつけた感も、あまり好きではございませんが、僕もWebの原稿は雑にUP→修正ということもございます。これからもお互いそれぞれに、みなさん元気にがんばってまいりましょうとエールをお送りさせていただき、原稿の修正に戻ります。