2019年3月1日金曜日

遅ればせながら『dancyu』3月号の日本酒特集号におけるせんべい特集の告知

来週には次号(なんとシュークリーム特集!)が出ているdancyuさんですが、まだ店頭に並んでいる在庫僅少の日本酒特集号(かなり売れているらしい)の第二特集、「せんべい」特集でテイスターの末席をやらせていただいております。
いや本当にテイスターのなかに僕がいていいのかという、豪華な顔ぶれに恐縮至極。

せんべいと言えば「焼き」。焼きの名人と言えば、銀座バードランドの@和田利弘さん!(昨年もBSの番組等々でたいへんお世話になりました)

さらにせんべいと言えば「米」。都立大学の名焼鳥店「スズノブ」の西島豊造さん!(15年前、僕の米に対する認識を変えた佐賀のヒノヒカリをご紹介いただいて以来のごあいさつ)

そしてずばりせんべいと言えば、朝から食べるほどのせんべい好き(詳しくは本誌プロフィールをご参照ください)の浅妻千映子さん(『東京最高のレストラン』でもたいへんお世話になっております)という豪華メンバーのなかにのこのこと迷い込んで、数十のせんべいをバリバリと食べてきました。


はからずも僕のイチオシは普段のお使いものでわりとよく買うせんべい屋さんのもの。ちなみに、渾身のコメント「せんべいだけに好みが割れますね」は不採用でしたw


2019年1月25日金曜日

【残少】2月10日(日)牛銀にて「日本食文化会議2019三重」【松阪肉をマニアックに堪能する会】

「日本食文化会議2019三重」の【松阪肉をマニアックに堪能する会】。めったにお目にかかれない特産松阪肉のご威光か、2週間を残して残席が数枚になっている模様です。
さて今回のご案内に「幻の特産松阪肉」と書かれていますが、少し補足しておきます。
現在、松阪牛の定義は「松阪牛生産区域内での肥育期間が最長かつ最終である未経産の黒毛和種のメス」となっています。
ざっくり言うと「松阪育ちの黒毛の処女牛」。2002年まで、3つの認定団体で異なっていた松阪牛の基準が統一され、月齢、素牛(子牛)の産地、格付けなどの縛りはなくなりました。しかし「特産松阪牛」は別。前出の条件に加えて「兵庫県産の牛」(いわゆる但馬血統)を「900日以上」かけて肥育しています(と畜月齢で平均42か月)。
但馬血統の味や肉質のよさは、黒毛和牛のなかでも折り紙つきですが、近年では交配などの課題や畜産家の高齢化などもあり、但馬血統の和牛、それも未経産の雌牛はますます高嶺の花になってきています。長く飼うということはその分飼料代もかかるし、病気やその他のリスクもある。
それでも「特産」を目指して長く飼う。そんな畜産家の気概が、味の深みや余韻につながっているのかもしれません。実際、長く肥育された牛ほど味や香りがよく感じられる傾向があります。
「但馬血統」「雌牛」「長期肥育」という条件を満たすのは、国内でも特産松阪肉のみ(もちろん世界でも)。ですから「幻」と言われていますし、味わえる機会もめったにありません。
会場は「松阪に金銀あり」と、和田金さんと並び称される「牛銀」さん。僕もとても楽しみにしています。よろしければご一緒くださいまし。
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世界に誇る松阪肉。きめ細かな肉質に適度な霜降り。決して脂に頼らない肉質は比類ない美味しさかと。そんな松阪肉の魅力を、松本栄文と「肉ドリル」の著者 松浦達也とで超マニアックにも語りつくします。当日は松阪肉と幻の特産松阪肉を「ヒレの網焼き」「すき焼き」とで食べ比べます。肉、肉、肉。そんな贅沢なひとときを松阪で御楽しみください。
■日時:2月10日(日)18:00~20:30
■会場:牛銀本店/松阪市魚町1618(松阪駅より徒歩15分)/TEL:0598-21-0404
■出演者:松本栄文氏(日本食文化会議理事長)、松浦達也氏(編集者/フードアクティビスト)
■参加費:29,000円(+別途お飲物)・定員30名 
【お申い込み】専用フォーム【https://goo.gl/forms/4Rs6HFUU257el0Mu1】から受付けております。

2017年12月24日日曜日

ジビーフのすき焼き肉はイケるのか

Facebookに先に上げて後からBlogに移植するという謎展開なのですが、IFTTTとかBlogの挙動や連動サービスを完全に忘れているのでメンテナンス的に投稿。そうか。Blogはタイトルつけなきゃいけないんだっけかというくらいの老人です。
先日、サカエヤの新保さんが「半信半疑」と珍しい出し方をされたすき焼き用ジビーフの肩ロースが届いた。なるほど着荷を開けて現物を見てみると、和牛はもちろん交雑よりサシが少ない。
一枚試しに焼いて食べてみた。ううむ。やっぱり野趣が強い。エゾシカや野生の鴨に近い香りがする。これは普通の割り下では合いづらそう。濃口:みりん:日本酒:水を等倍割にして甘味を押さえた割り下でもう一枚。さすがにきりりとしすぎだったので、ほんの少しだけ砂糖を追った。
そしていよいよすき焼き本編へ。ストレートにキャラメリゼした糖と合わせると、味が分離しそうだったので、まず味の橋渡し役の葱油をつくることに。
火にかけた鉄のすき焼き鍋に、太白胡麻油を多めになじませて、厚めに切った千寿葱をまとめて放り込む。両面に焼き色がついたら、一巡目で食べる葱だけ残して、残りは引き上げていよいよお肉の登場。
火加減が悩ましい。通常のすき焼き肉よりカットが薄かったので、中弱火に(ネギの糖分もあるから、斤量の厚いすき焼き鍋を強火にかけると焦げそう)。ジューッという音とともに肉を置き、上から割り下を一文字にひとたらし。両面ざっと焼きつけたら、溶き卵につけてドキドキしながら口へと運ぶ。
……。うまいな! 葱油との相性抜群。そうか、鴨に似た野趣があるならカモネギ同様合わないわけがない。というわけで二枚目は葱とともに口の中へ。これはいい! 葱とジビーフ、めちゃくちゃ合う。
しかも意外(失礼!)なほどやわらかい(この食感については、おそらく新保さんが薄めのカットを選択したことも関係している。想像よりも薄くカットされていた) 玉ねぎも合うのかな。切っとけばよかったけど、焼き始めたからもう手遅れ。空腹に勝てずにここから通常のすき焼き展開へ。具は豆腐、白菜、しらたき、しいたけ、えのき、そして長葱。あ、春菊買い忘れた。
「焼きすき」から後半は水分を多めの「煮すき」へと移行したけど、それにしてもまあ量が食えること食えること。脂身の少なさと肉質の素性の良さ、両方のせいなんだろうけど、どんだけ食っても胃が軽い。
ふつうのすき焼きだと、僕にとってのごちそうはしらたき。すき焼きでは後半に大量にしらたきを放り込み、翌日和牛の味がみっちり染みたしらたきを溶き卵ごとごはんにぶっかけて食べるのが最高のごちそう……。なんだが、ジビーフすき焼きだと翌日はネギがうまい。
和牛だと葱が脂こてこてになってしまい、鬱陶しいネギになる。脂に対抗するには、割り下もある程度の濃さが必要だ。でもジビーフなら溶出した脂自体が少ないから、割り下を強くしなくてもいい。むしろ肉の味が葱の味を底上げしてくれる(※野趣味の強さが鴨やエゾシカの味わいに近いとするならば、味つけのイメージとしては鴨鍋くらいの甘さがちょうどいいのかも)。
そして脂が少ないから霜降り肉より他の具材に味が干渉が少ない。肉自体に味がしっかり残る(つまり、従来型のすき焼きの味はやはり脂の味に由来する部分が大きいということでもある)。翌日のすき焼きの肉も割り下味ではなく、噛み込んだ肉の間からしっかり野趣が立ち上ってきた。やっぱりきちんと育てられた肉は面白い。
というようなメモを残しつつ、山積み状態の原稿へと戻ります。ぐはぁ。

2016年5月17日火曜日

帰ってきた"Nose To Tail"! 日本人の知らなかった和牛へのアプローチ

始まりましたよ。ニューヨーク グリルの年に一度の牛祭りが! 昨日、16日から新宿「パーク ハイアット 東京」の「ニューヨーク グリル」で「牛一頭まるごとおいしく食べ尽くす」というコンセプトのフェア「ノーズ トゥ テール」が始まったわけですが、相変わらずアルゼンチン出身のフェデリコ・ハインツマン総料理長の肉料理の発想がキレッキレでございました。

去年の第一弾のテーマは"フレッシュ&シーズナル"。いわば「鮮と旬」。日本料理の根幹となるテーマで和牛をお取り扱い。第二弾となる、今年のテーマは「スモーク&キュア」。意訳すると「燻製とマリネ」といったところ。今年の「ノーズ トゥ テール」の品書きは以下のとおり。ちなみにそれぞれワインとのペアリングも楽しめるセットとなっておりました。

1.牛タンのサラダとグリーンピース
赤玉葱と胡瓜のピクルス ひよこ豆

2.牛ハツのパストラミ 黄身の味噌マリネ
ピーナッツソースとスモークバター

3.黒毛和牛のブリスケットBBQソース
人参キノアのリゾット サンモールチーズ

4.バーボンでマリネした黒毛和牛フランクステーキ スイートガーリック
パタゴニアソルトとスモークしたセロリアックピューレ トリュフソース

5."パンケケ"キャラメルクリーム
ビターチョコレートアイスクリームとカカオクランブル


まずは前菜。「牛タンのサラダとグリーンピース 赤玉葱と胡瓜のピクルス ひよこ豆」
















「ニューヨークグリルだから、NYテイストを盛り込みたい」とフェデリコが望んで盛り込まれた前菜。70℃台前半の火入れは難しい。たいていの肉好きは浅い火入れを好むけど、肉を食べこんだマニアたちは浅いだけの火入れよりも焼きこんだ味を好んだりもする。この牛タンは煮込みのようなやわらかさはないが、火は通っている。黒毛和牛のタンの新しい側面を見ることができる。牛タンなのに食べるとお腹がすくとはこれいかに。合わせるワインはメルヴィル エステート シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ。


牛ハツのパストラミ 黄身の味噌マリネ ピーナッツソースとスモークバター
















「アルゼンチンではハツのグリルにピーナッツソースを合わせるのは定番」とフェデリコは言うものの日本人にとっては目新しい組み合わせ。脂肪の少ない牛ハツにナッツの濃醇なコクは確かに合う(これは使える……)。パストラミは24時間、塩、砂糖、酢などでマリネしたあと、65℃のオーブンで3.5時間加熱したものを冷却。「黄身の味噌がけ」は味噌、酒、みりんといった和の調味料+オリーブオイル。皿の上の時点でマリアージュ。メルヴィル エステート ピノ・ノワール サンタ・リタ・ヒルズの少し粗野な味が獣肉×ナッツと好相性。


黒毛和牛のブリスケットBBQソース 人参キノアのリゾット サンモールチーズ
















ブリスケットは、海外ではBBQなどでよく使われる部位。日本では「肩バラ」と言われるが、比較的硬いのでレシピや用途に工夫が必要。以前、dressingの連載で湘南のBBQハウスで供される10時間焼きを紹介したが、NYグリルでも塩、砂糖で72時間マリネ→4~6時間スモーク→65℃のオーブンで加熱(時間聞きそびれた)と手間と時間をかけた超希少な一皿に。そもそも日本ではブリスケットを長時間かけて調理すること自体が珍しい上に、和牛にこの手法を使った皿は本当に珍しい。NYグリルとはいえ、さすがにレギュラーで出すには手が掛かりそう。噛みこむと肉の繊維がじわじわとほどけ、奥から確かに和牛の底深いうま味がしみ出してくる。永遠に噛んでいたいと思い始める頃、肉の繊維が消滅するたいへん意地悪な設計。ぐぬぬ。フェアならではの一皿。


バーボンでマリネした黒毛和牛フランクステーキ スイートガーリック
パタゴニアソルトとスモークしたセロリアックピューレ トリュフソース


















「フランク」はアメリカではよくステーキに使われる部位。日本では「ササミ」「ササニク」と呼ばれ、焼肉店で薄切りの「カルビ」として見かけることのほうが多い。でも適度な噛みごたえと多少の脂もあるから、とてもステーキに向いていると思う。日本ではサーロインばかりが珍重される傾向があるけど、こういう部位にも付加価値がつくといいなあ。ブラウンシュガー、塩、バーボンで24時間マリネしたものをステーキに。世界一古い(300万年前の層だそうな)パタゴニアソルトのほか、熟成ニンニクのスイートガーリックピュレなどで。




フェデリコの焼きは、いつも本当にお見事。日本では肉の内部をレアに仕上げることが多いが、このくらい追い込んだ火入れのほうが味のノリが一段深くなる。

【その他フェデリコメモ】
・今年2月に3週間アルゼンチンに帰国したら6kg太って東京に戻ってきたらしい。

・「アルゼンチン人は、年間50kg以上牛肉食うんだぜ」「人口よりも牛のほうが多いんだぜ」というアルゼンチン牛自慢は健在。

・あ、あと、たまごサンドが大好きで先日、某専門誌のサンドイッチ特集にお声がかからなかったことにたいへんしょんぼりされていたそうなので、今度何かあったらぜひお声がけを。どうやらコンビニのたまごサンドにまで精通しているという噂。






そして最後のデザートは
"パンケケ"キャラメルクリーム ビターチョコレートアイスクリームとカカオクランブル
















パンケケは南米のクレープ(みたいなもの)。砂糖がけしたあとキャラメリゼさせた香ばしさと、80%カカオのビターチョコレートアイスクリームのほろ苦さと、カカオクランブルの食感が楽しい。きちんとしたデザート×エスプレッソの〆は、やっぱり食事がグッと締まるよなあ。ごちそうさまでした。

あれ? そういえば、ワインはもう一種類あったような気がするけど、ついつい楽しく呑んでしまったので、詳細は現地にてご確認を。そしてたいへん重要なお話ですが、「ノーズ トゥ テール」は昨日16日(月)に始まりましたが、23日(月)までの1週間限定のフェアでありますので、大至急パーク ハイアット 東京のニューヨーク グリルまでお問い合わせを。ディナーコース20,000円で以下の夜景もついてきます(もちろん、食事のあとは同フロアのバーへの移動も可能)。詳細はこちら(http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000012816.html)でどうぞ。

2016年4月2日土曜日

マンガ大賞の楽しみ方&2016一次選考推薦コメント

本年もマンガ大賞2016が発表されました。大賞は野田サトルさんの『ゴールデンカムイ』。マンガ好きの書き手として何かしら賞のお役に立たねば、ということで、サボり倒しているエキサイトレビューさんに授賞式レポート含めた作品レビューを書くのが通例となって参りました。

さて、個人的にはマンガ大賞の醍醐味は一次選考にあり、と思っている次第であります。一次は選考員が好き放題に票を投じるので、その選考員の嗜好がわかりやすい。つまり、ベンチマークにすべき選考員が見つけやすいというステージでもあります。というわけで、「好きなマンガが上位に来なかったな……」という人向け(というわけでもないですが)に、こちらに本年の全選考員のコメントがUPされております。

本年の1次、2次全選考員コメント
http://www.mangataisho.com/data/2016/comment2016.pdf


ここで他の選考員のコメントを読むのと、一次選考後、未読のノミネート作品を読むのがもう楽しみで!

ここから趣味の合う選考員を探す

その人が一次選考で推している作品をチェックする

二次選考でどの作品に投票したかをチェックする

というような形でも新しい作品に出会えたりするのも楽しいところ。一応、以下に僕の一次選考時の推薦コメント貼りつけておきます。

ちなみに僕が二次選考て票を投じたのは以下の三作品。

一位 僕だけがいない街
二位 BLUE GIANT
三位 ゴールデンカムイ


そして一次選考で票を投じたのは以下5作品になります。一応、Amazonリンクも貼っておきますが、マンガは(リアル財布事情なども鑑みつつ)書店であれこれ迷いながら手に取るのがやっぱり楽しいと思うわけです。いや本当、昭和ですみません。


[ 作品タイトル1 ] 僕だけがいない街
[ 作者名1 ] 三部けい
[ コメント1 ] 3年連続で票を投じさせていただく。間違いなく日本マンガ史上に残るであろうサスペンスマンガ(万一今後の展開やエンディングがそうならなかったら、作品のファンは悲しみにくれると思う)。ストーリーとしては前半の山場を超えて、いよいよここから大きく展開するであろうところ。読み手にとっての気は熟した。張り巡らされた伏線はどのように回収されていくのか。 5巻までのじりじりするような構成は読み手にとっては楽しみでもあったが、次巻を待つのがつらい展開でもあった。物語が一気に展開したいまなら、一気読みから次巻以降への思いを巡らせることができるはず。恐らくは残り巻数もそう多くはない。リアルタイムで歴史の証人になるのはいま!
※すでに連載は終了。最終巻の8巻も4月26日の発売が決定していますが、一次選考
投票時は、連載終了含め、未発表でした。二次でも一位に投票。



[ 作品タイトル2 ] BLUE GIANT
[ 作者名2 ] 石塚真一
[ コメント2 ] 第一回マンガ大賞を『岳』で受賞している石塚真一の新境地。世にジャズをモチーフにしたマンガは少ない。日本のジャズマーケットとのサイズとも無縁ではないだろうし、「舞台がジャズでなければならない強固な理由」が見えづらいというような理由もあるかもしれない。だがこのマンガはジャズでなければならない。生々しい音圧にメンバー間の熱いやりとり。回を追うごとに物語を担うバンドメンバー3人のそれぞれの人間くささが、共感できるような温度でよりくっきりと描かれるようになった。いよいよ物語が大きく動き出しそうないま、まさに読み頃です。
※これも二次でも投票。骨太なスケール感。以前、チラ読みしてしっくり来なかったという方には、ぜひ通し読みをおすすめします。音楽経験者にはジャンル問わず、特におすすめ。

[ 作品タイトル3 ] 東京タラレバ娘
[ 作者名3 ] 東村アキコ
[ コメント3 ] 昨年の大賞受賞者を推すのは気が引けなくもない。でも面白いのだから仕方がない。描かれているのは、仕事をしながら東京で暮らすアラサーシングル女性3人組のちょっとアレな恋愛模様。不倫&セカンドに走る女性はいつの時代もいる。でも、いま世の中に受け入れられている(ように見える)のは、切り上げ時を見失う男女が増えたからか、単純に可視化されるようになったからか、はたまたそういう交際のあり方が肯定されるようになったからか。「働く女性のマンガ」として『働きマン』(安野モヨコ)のB面的な捉え方をするなら、いまを生きる日本人はまだ「身の丈サイズの幸せ人生の型」を見つけられていないのかも。男性も深く潜って読むといいと思える作品。『ヒモザイル』復活も祈念。
※授賞式で著者が「最近では、周囲から「ホラーマンガと言われる」と笑いを取っていたが、『かくかくしかじか』でも炸裂していた、切なげな心理描写はもう匠の域。個人的には大好きだけど、誰におすすめすべきかちょっと迷ったので二次では『ゴールデンカムイ』と入れ替えに。

[ 作品タイトル4 ] あれよ星屑
[ 作者名4 ] 山田参助
[ コメント4 ] 戦後の混乱期を描いた「焼け跡ブロマンス」だそうだが、このオビには語弊があると思う。Wikipediaによると「ブロマンス」とは「broもしくはbrother(兄弟)とromance(ロマンス)のかばん語」で「一般的なホモソーシャル行為と歴史的な恋愛的友情の2つに区別される」……ってそういう作品だろうか……。画風はさておき、描かれているのはさまざまな業を背負いながらもたくましく生きていく人間の姿。 言うなれば「焼け跡人間賛歌」。時代や立場によって感情や正義はうつろう。頼りないいまにどう立ち向かい、どう生きるべきか。このマンガは現代に暮らす読み手自身の生き様を問うている。
※当然、二次に進むだろうと思っていたので、ノミネートに至らなかったのが超意外な作品。確かに戦後の混乱期の様子や画風など苦手な人はいるだろうけど、ぬくぬくとした現代に暮らすわれわれこそ読むべき作品だと思うんすよね。いや本当、僕らは恵まれてます。

[ 作品タイトル5 ] 天国ニョーボ
[ 作者名5 ] 須賀原洋行
[ コメント5 ] 『気分は形而上』で作者の奥様をモデルとした「よしえサン」のファンになってから四半世紀。前作の「実在ゲキウマ地酒日記」の最終回で夫唱婦随の奥様が亡くなったことを知り、ひとりのファン(作者に対しても「よしえサン」に対しても)としてショックを受けた。心のなかでお悔やみを申し上げながら、いつかまたペンを手にとってくださることを祈っていた。そこに、発明的とも言えるほどとんでもないたてつけの作品でのカムバック。この1巻には票を入れざるを得ません。
※一次選考で投票したなかで、個人的な思い入れ全開で票を投じた唯一の作品。旧作を読んでない人にはどう響くかわからないけど、描き手の側もマンガに救われることがあるということを、教えられました。第一話を連載で呼んだときには、ボロボロ泣いたなあ。

2016年3月15日火曜日

土井家の黒豆

編集者やライターといった仕事をしていると、担当した連載しだいで、その後関わる仕事が大きく変わることは結構ある。まったく興味のなかった分野でもその面白さに目覚めて、舵を切ることもあるだろうし、もともと興味のある分野ならばなおさら転機になりやすい。

今月売りの『dancyu』2016年4月号のレシピ特集「いいレシピってなんだ?」で、数年ぶりに土井善晴先生にお会いした。


http://www.amazon.co.jp/dp/B01BCF916K/

以前、テレビ朝日『おかずのクッキング』の番組本で、数年間、土井先生の対談連載の構成をしていたことがある。2007~2012年のことだ。ほぼすべての対談現場に立ち会い、全原稿に関わった。

対談のお相手は、すごい方々ばかりだった。斉須政雄さん(コート・ドール)、森義文さん(カハラ)、岸田周三さん(カンテサンス)といった料理界の巨人に、辻村史朗さん(陶芸家)、石川九楊さん(書家)、坂茂さん(建築家)、といった、創造性の高い現場で体を張る達人たち。

そのほか、山極寿一さん(京都大学)、金田一秀穂さん(言語学者)、熊倉功夫さん(国立民族学博物館)といった研究職の方々に、水木しげるさん・武良布枝さん夫妻、森英恵さん、榊原郁恵さん、小山薫堂さん、有森裕子さん、山本聖子さん、桂三枝(現・文枝)さんなど数え上げたらキリがない。

お相手はすべて土井先生ご本人の指名。現場で繰り広げられる会話から、とてもたくさんのことを勉強させていただいた。この連載で見聞きしたことが、ある面では自分の考え方の土台になってもいる。ここ数年で食べ物関連の仕事にずいぶんと軸足を置くようになったが、そのきっかけのひとつは、間違いなくこの対談連載だった。

何度かあった京都での取材後には、必ず土井先生お気に入りの丼もの屋で食事をした。何度目かのとき、「ごはん軽めで」と注文しようとしたら「いいバランスになるよう作ってはるんやから」とたしなめられたし、震災後には、"着丼"を待ちながらあるべき仕事のスタンスについて話を聞いていただいたこともあった。

そんな土井先生が今回の特集にあたり、選んだレシピが父・土井勝さんから受け継いだ"黒豆"だった。原稿の導入で「ある特定のメニューでたったひとつのレシピがこれほどまでに支持され、伝播した例はないだろう」と書いた。これはまったくオーバーな話ではない。名だたるシェフから料理家までこのレシピの黒豆で正月を迎えた家庭は多かったと聞く。決して料理上手ではなかったうちの母親も、黒豆といえばこのレシピだった。黒豆界(というものが存在するかはさておき)に革命を起こしたレシピであり、錚々たる方々が登場する今回の特集の締めに選ばれたのには、このレシピの奥深さがあるんだと思う。


僕は政治家や医者、漫画家といった職業の方を「先生」と呼ぶのがわりと苦手だ。すべての人は取材の対象になり得るし、目線を下げ過ぎると見えなくなるものがある。心のこもっていない、記号としての「先生」使いが好きじゃない。でも土井先生については、いつからか自然と「土井センセ」と呼ぶようになっていた。それだけたくさんのことを(勝手に)学ばせていただいたんだと思う。

撮影後、初めて本家本元、土井家の黒豆をいただいた。レシピは同じでも実家の黒豆より味が澄んでいる。言うまでもなく、とてもおいしい。じっくり味わうと違いは明らか。それでもどこか似ていて懐かしい。取材後、自分でも黒豆を炊いてみた。案の定、何かが違う。でもでもやっぱり懐かしい。

いいレシピってこういうことか。

2015年9月16日水曜日

「「早死に」の原因は食生活だった(研究結果)」のばか

なんだろう。この冗談みたいなハフポストの記事は。ツッコミどころがありすぎて、ツッコミたくなくなりますし、こんなことやってる場合じゃないんですが、いかにピックアップするポイントがひどいかだけ、備忘録がてら。

「早死に」の原因は食生活だった(研究結果)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/09/14/poor-diet-cause-of-early-death-_n_8137502.html?ncid=fcbklnkjphpmg00000001

2013年には世界中で3,100万人が死亡しており、1990年の2,500万人から大幅に増えている。
こんな指標をドーンと出してくる斜め上のセンスがすごい。1990年当時の人口は52億7000万人、2013年で70億人。試しにこの単純計算土俵に乗っかって総人口に対する死亡率を単純比較してみると1990年は4.8%で、2013年は4.4%。わざわざ指摘するまでもなく、単純死亡率では有意に下がってるじゃないですか。

だいたい世界的にも、大局的には平均余命が右肩上がりな21世紀のいま(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life10/03.html
 )、「早死に」という個人の意識に引っ掛けた見出しが気持ち悪い。

あとね。この博士がかわいそう。

研究を主導した、保険指標評価研究所のクリストファー・マレー博士は、「喫煙や不健康な食生活をやめ、大気汚染などの環境リスクへの対策を強化すれば、健康を改善できる可能性は高い」と述べた。

クリストファー・マレー博士もこんな煽り記事のなかで、さも新しいことを語ってるようなしつらえで書かれると迷惑がるんじゃないでしょうか。「述べた」じゃねえよ。と口の悪い人なら罵詈雑言を浴びせるところですよ。比べてみると同じ研究内容でも以前の発表に対する東京大学のリリース(※PDF http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20121214.pdf )は劇的にまとも。
発表内容: 医療の進歩や開発の進展によって、世界の人口の大半は早死しなくなったものの、皮肉なこと に病気を抱えながら長生きするようになったことが、世界の疾病負担研究(GBD 2010)により 分かった。

予測はできていた当たり前のことだけれども、きちんと調査したら改めて実証されたという研究を「劇的な新発見!」みたいな調子で書かれた記事をい海外から持ってくる。Webのオチの失格例としてよく持ち出される「どうだろうか」という言葉を使わざるを得ないわけです。

だいたい元記事のハフポストUK版の記事(http://www.huffingtonpost.co.uk/2015/09/14/poor-diet-largest-cause-of-early-death-worldwide_n_8132344.html なんて英国本国ではそのままゴミ箱行きレベルで読まれてないのになんでわざわざ日本に持ってきてゴミを撒き散らかすんでしょうか真に受けるほうも真に受けるほうだしこんなところでブログに書いてる自分もどうかと思うんですが


でもこういう記事ばかり引っ張ってきてると、メディアとして信頼されなくなって読まれなくなりそうなリスクが危なくて怖いです。という、自戒を込めながら、書き手のNatasha HindeさんというLifestyle writerさんの記事をざざっと見てみました。
http://www.huffingtonpost.jp/natasha-hinde/

日本で言うと(面識はないけど)あの人とかあの人みたいなライターさんかな。ああ、本当にどうでもいいものに時間を費やしてしまった。あわてて見積もりと企画書と原稿にとりかかりながら、明日行われる夢のような肉会に備えます。